AIが遺言書作成時に見落とす個別事情とその実例

遺言書は、AIに相談しながら書けば安心――そう感じている方も増えています。
ただ、AIが作る文案はあくまで一般的な知識をもとにしたものであり、あなたご自身の家族構成や資産状況といった”個別事情”までは、必ずしも汲み取ってくれません。
この記事では、AIが見落としやすい代表的な5つの場面を、具体的な想定ケースとともにご紹介します。

目次

AIが遺留分の計算を見落とす失敗パターン

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遺言書を作るとき、多くの方が気にするのは「誰に何を残すか」という点です。
ですが、それと同じくらい大切なのが「遺留分(いりゅうぶん)」への配慮です。遺留分とは、一定の相続人に法律上保障されている最低限の取得分のことで、遺言によっても完全には奪えない権利とされています。
AIに文案を作ってもらう際、質問に答える形で条件を伝えれば、それらしい遺言文はたしかに仕上がります。
しかし、家族構成が少し込み入っていたり、財産の内訳が複雑だったりすると、遺留分の観点まで踏み込んで指摘してくれるとは限りません。ここでは、実際に起こりうる失敗パターンを、想定ケースとともに見ていきます。

遺留分とは何か、AIが判断を誤りやすい理由

遺留分は、配偶者や子(またはその代襲相続人)、直系尊属に認められている権利で、兄弟姉妹の相続、実は「遺留分」がないと知っていますかでも触れているとおり、相続人の立場によって扱いが大きく異なります。
AIに遺言文の作成を依頼すると、入力した条件をもとに一般的な文例を組み立ててくれますが、その裏側にある「この配分だと遺留分を侵害する可能性がある」という判断まで、必ずしも自動的に行われるわけではありません。
特に、実子・養子・認知した子など、相続人の種類が複数入り混じる家庭では、誰にどの程度の遺留分が発生するのかという計算自体に専門的な知識が必要になります。
あるAI遺言書作成サービスの例では、複数の相続人がいる状態で「妻に全財産を相続させる」という文案を作ろうとすると、遺留分の問題が生じることをAIが知らせてくれる仕組みが搭載されているケースもあるようです。
裏を返せば、そうした仕組みを持たない一般的なAIチャットサービスに相談した場合は、遺留分への配慮がないまま文案だけが完成してしまう可能性がある、ということでもあります。
AIは入力された情報をもとに文章を生成することは得意でも、家族関係の背景にある事情や、将来起こりうるトラブルの芽までは読み取れないと考えておいたほうが安心です。

ケース1|「配偶者に全財産を」という遺言でAIが遺留分を考慮しなかった場合

よくある相談の一つが、「配偶者に全財産を相続させたい」という内容です。
子どもがいない夫婦であれば大きな問題になりにくいケースもありますが、前の婚姻でもうけたお子さんがいる場合は事情が変わってきます。
たとえば、Aさん(60代男性)が再婚しており、前妻との間に成人した子どもが一人いるとします。Aさんが一般的なAIチャットサービスに「妻に全財産を相続させる遺言を作りたい」とだけ伝えた場合、条件通りの文案がそのまま完成してしまうことがあります。
この文案をもとに公正証書遺言を作成し、Aさんがお亡くなりになったとします。前妻との子どもには法律上、遺留分が認められているため、後になって遺留分侵害額請求という形で、配偶者に金銭の支払いを求める手続きが発生する可能性があります。
Aさんとしては「家族に迷惑をかけたくない」という想いで遺言書を準備したにもかかわらず、結果的に配偶者と前妻の子どもとの間で、金銭のやり取りをめぐる話し合いが必要になってしまうわけです。
このようなケースは、AIに「なぜこの内容だとトラブルになりうるのか」を尋ねる一手間があれば防げた可能性もあります。文案が完成した後こそ、立ち止まって確認することが大切です。

ケース2|前婚の子や認知した子がいるとAIの計算が複雑化する

家族構成がさらに複雑になると、AIが提示する文案と実際の法律関係との間にズレが生まれやすくなります。
たとえば、Bさん(70代男性)に、現在の配偶者との間の子どもが二人、さらに認知した子どもが一人いるとします。Bさんが「今の家族に多く残したい」という気持ちから、認知した子どもへの取得分を極端に少なくする内容をAIに伝えたとします。
AIは伝えられた条件をもとに文案を作成しますが、認知した子どもにも実子と同じ割合の遺留分が認められているという前提を、利用者側が正しく理解していなければ、遺留分を侵害する内容のまま遺言書が完成してしまいます。
結果として、Bさんがお亡くなりになった後、認知した子どもから遺留分侵害額請求がなされ、想定していなかった金銭の支払いが必要になる可能性があります。
このように、相続人の種類が増えるほど、遺留分の計算は複雑になります。AIに「認知した子がいる場合の遺留分の考え方」を具体的に質問し、必要に応じて専門家に確認する姿勢が、トラブルを防ぐ第一歩になります。

遺留分侵害額請求に発展した場合に想定される展開

実際に遺留分を侵害する内容の遺言書が残された場合、どのような流れになるのでしょうか。
まず、遺留分を侵害された相続人は、財産を多く受け取った相続人に対して、金銭で支払うよう請求できます。これを遺留分侵害額請求といいます。
請求を受けた側は、現金で対応できない場合、不動産を売却したり、預貯金を取り崩したりして支払いに充てる必要が出てくることもあります。
また、当事者同士の話し合いで解決しない場合は、家庭裁判所での調停や、場合によっては訴訟に発展することも考えられます。
本来であれば、遺言書は相続人同士のトラブルを防ぐために作成するものです。しかし、遺留分への配慮を欠いた内容のまま完成させてしまうと、かえって新たな争いの火種になりかねません。
AIに相談する際は、文案の完成だけをゴールにせず、「この内容で遺留分を侵害していないか」という一点を、必ず確認するようにしましょう。

財産目録の記載漏れが起きる典型ケース

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遺言書とあわせて作成しておきたいのが「財産目録」です。
財産目録とは、預貯金や不動産、有価証券など、ご自身が持つ財産を一覧にした書類のことです。財産目録の記載に決まった書式はありませんが、記載漏れがあると相続争いの原因になりやすいと指摘されています。
AIに財産の情報を伝えて目録を作ってもらう場合も、こちらが伝え忘れた財産は当然反映されません。ここでは、AIとのやり取りの中で記載漏れが起きやすい典型的なケースを見ていきます。

AIが把握しきれない資産の種類(デジタル資産・名義預金など)

財産目録に記載すべき財産は、預貯金や不動産、有価証券といった分かりやすいものだけではありません。
ネット銀行の口座、証券会社のオンライン口座、電子マネーの残高、各種ポイントなど、いわゆる「デジタル資産」も相続財産に含まれる可能性があります。
こうした資産は通帳や郵送物として手元に残らないため、ご本人が伝え忘れてしまうと、AIが作る目録にはそもそも登場しません。
また、家族名義の口座であっても、実際にはご自身が管理・拠出していた「名義預金」とみなされる預貯金も、相続財産として扱われる場合があります。名義預金は本人以外には存在自体が分かりにくく、伝え忘れが起きやすい典型例です。
AIに財産情報を伝える際は、「銀行口座」「不動産」といった大まかな分類だけでなく、ネット銀行・証券口座・電子マネー・各種ポイントまで、思いつく限り書き出してから伝えることが、記載漏れを防ぐ第一歩になります。

ケース3|不動産の登記情報が不正確なままAIが目録を作成した場合

不動産は財産目録の中でも特に金額が大きく、記載の正確さが求められる項目です。
たとえば、Cさん(60代女性)が「実家の土地と建物」とだけAIに伝えて目録を作成してもらったとします。地番や家屋番号、登記簿上の正確な情報を確認しないまま作成された目録は、記載としては不十分な状態になります。
後になって相続人が登記簿謄本を取得し、目録に記載されていた内容と実際の登記情報にズレがあることに気づいた場合、「本当にこれで全部なのか」「他にも記載していない不動産があるのではないか」という疑いが生じやすくなります。
特に、共有持分がある不動産や、他県にある土地など、ご本人にとっても把握しきれていない不動産がある場合は注意が必要です。
AIに目録の作成を依頼する場合でも、不動産については登記簿謄本を取得したうえで、地番・家屋番号・持分割合まで正確に伝えることが、記載漏れを防ぐポイントになります。

ケース4|証券口座やポイント資産がごっそり抜け落ちていた場合

証券口座や投資信託、各種ポイントは、預貯金や不動産に比べて「財産」という意識を持ちにくい方も多いのではないでしょうか。
たとえば、Dさん(50代男性)が複数の証券会社に口座を持ち、投資信託や個別株を保有していたとします。AIに財産を伝える際、メインで使っている証券口座だけを伝え、以前開設したまま使っていない別の証券口座の存在を伝え忘れてしまうケースが考えられます。
Dさんがお亡くなりになった後、相続人がメインの証券口座しか把握できていないと、残りの証券口座に気づかないまま相続手続きが進んでしまう可能性があります。後になって別の証券会社から郵便物が届き、初めてその存在に気づくといった事態も起こり得ます。
また、航空会社のマイルや各種ポイントも、規約によっては相続の対象になる場合があります。こうした資産は残高を確認する手段が限られているため、記載漏れが起きやすい項目のひとつです。
財産目録を作る際は、「使っている口座」だけでなく「過去に開設した口座」まで思い出しながら、AIに伝える情報を整理することが大切です。

記載漏れが発覚した後、相続人がどう動くことになるか

財産目録に記載漏れがあった場合、相続人はどのような対応を迫られるのでしょうか。
まず、遺産分割協議がすでに終わっていた場合でも、新たな財産が見つかれば、その財産についてあらためて話し合いをする必要が出てきます。
すでに合意していた内容に加えて、追加の財産をどう分けるかという新しい論点が発生するため、相続人同士の間で「本当に他にはないのか」という疑心暗鬼につながりやすくなります。
また、相続税の申告をすでに済ませていた場合は、修正申告が必要になることもあります。申告のやり直しは手間だけでなく、相続人にとって精神的な負担にもなりかねません。
こうした事態を避けるためには、財産目録を作成した後、金融機関や証券会社からの郵便物、通帳の履歴などを見返しながら、記載漏れがないかをご自身でも確認しておくことをおすすめします。
財産目録は一度作って終わりではなく、財産状況が変わるたびに見直すことで、より安心できるものになります。

相続人の「存在」をAIが把握しきれないケース

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遺言書を作るうえで大前提となるのが、「誰が相続人にあたるのか」を正確に把握することです。
戸籍上の配偶者や子どもであれば分かりやすいのですが、内縁関係のパートナーや、認知していないお子さんなど、AIに伝えなければ存在自体が浮かび上がってこない関係性もあります。
AIはあくまで、入力された情報をもとに文案を組み立てる仕組みです。伝え忘れた事実は、当然ながら遺言書の内容にも反映されません。ここでは、相続人の存在そのものがAIに伝わらなかったことで生じる問題を見ていきます。特に、法律婚を前提としない関係や、複雑な家庭の事情がある場合ほど、この見落としは起こりやすくなります。ご本人にとっては当たり前の関係でも、AIにとっては「伝えられた情報がすべて」だという前提を、忘れないようにしたいところです。

法定相続人の範囲はAIへの入力内容がすべて

AIに遺言書の文案作成を依頼する際、多くのサービスでは「配偶者はいますか」「お子さんは何人いますか」といった質問に答える形で進んでいきます。
この段階で、ご本人が意識的・無意識的に伝えなかった事実があると、AIはその存在を前提としない文案を作成してしまいます。
たとえば、長年連れ添った内縁のパートナーがいても、婚姻届を出していないという理由で「配偶者はいない」と答えてしまうと、AIはそのパートナーを相続人として想定しない文案を作ります。
しかし、内縁関係は法律上の配偶者とは扱いが異なり、そもそも法定相続人には含まれません。だからこそ、遺言書の中で明確に財産を遺す意思を示しておかなければ、パートナーには何も残らない結果になりかねません。
AIとのやり取りは「聞かれたことに答える」だけで終わらせず、ご自身の家族関係を一度整理してから伝えることが、正確な遺言書につながります。

ケース5|内縁のパートナーの存在をAIに伝え忘れていた場合

Eさん(60代女性)は、10年以上連れ添った内縁のパートナーと暮らしていました。Eさんが「家族に財産を残したい」とAIに相談した際、法律上の家族である兄弟姉妹のことだけを伝え、内縁のパートナーについては特に触れませんでした。
AIが作成した文案は、法定相続人である兄弟姉妹に財産を渡す内容にまとまりました。この文案をもとに遺言書を完成させ、Eさんがお亡くなりになったとします。
内縁のパートナーには法律上、相続権が認められていません。遺言書に名前が記載されていなければ、長年連れ添ったパートナーであっても、財産を受け取ることはできない可能性が高くなります。
Eさんとしては「言わなくても分かってもらえる」というつもりだったのかもしれませんが、遺言書という書面の世界では、明記されていない意思は存在しないものとして扱われてしまいます。
内縁関係にある方への想いがある場合は、AIとのやり取りの中でその存在を明確に伝え、遺言書に反映させることが欠かせません。

ケース6|認知していない子がいることをAIに伝えなかった場合

Fさん(70代男性)には、婚姻関係にない女性との間に生まれ、認知していないお子さんがいるとします。Fさんはこの事実を家族にも打ち明けておらず、AIに遺言書の相談をした際も、現在の家族構成だけを伝えました。
AIはFさんから伝えられた情報だけをもとに、現在の配偶者とお子さんに財産を渡す文案を作成しました。
ここで注意したいのは、認知していないお子さんであっても、死後に認知の手続きが取られた場合、法律上の子として扱われる可能性があるという点です。仮に死後認知が認められれば、そのお子さんにも遺留分が発生し、他の相続人に対して遺留分侵害額請求がなされることも考えられます。
Fさんが生前に事実を整理し、AIに正確に伝えたうえで対応を検討していれば、遺された家族が突然の請求に戸惑うという事態を防げたかもしれません。
言いづらい事情ほど、早めに専門家に相談しながら整理しておくことが、遺された方々への配慮につながります。

疎遠な親族・甥姪まで含めた相続人把握の難しさ

お子さんがいらっしゃらない方の場合、相続人の範囲は配偶者や親、兄弟姉妹、さらには甥・姪にまで広がることがあります。
疎遠な甥・姪が相続人に?知らないと困る相続のルールでも触れているとおり、長年連絡を取っていない親族が、法律上は相続人にあたるというケースは珍しくありません。
ご本人が「うちには相続人はいない」と思い込んでいても、実際には戸籍をたどると複数の甥・姪が該当する、というケースもよくあります。
AIに「相続人はいません」とだけ伝えてしまうと、実際には存在する法定相続人を無視した内容の遺言書ができあがってしまう可能性があります。
ご自身の相続人が誰にあたるのかを正確に把握するには、戸籍謄本をたどって確認する必要があります。AIとの対話だけで完結させず、必要に応じて専門家に相続人調査を依頼することも検討してみましょう。

遺言執行者や付言事項などをAIが提案しないケース

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遺言書の内容は、「誰に何を渡すか」だけで完成するものではありません。
実際にその内容を実行してくれる「遺言執行者」を誰にするか、また、財産の話とは別に家族へ伝えたい想いをどう書き残すかといった、運用面の工夫も欠かせない要素です。
AIは、伝えられた条件をもとに財産の分け方を整理することは得意でも、こうした運用面の細かな配慮までは、こちらから尋ねない限り提案してくれないことがあります。ここでは、運用面の見落としが招く問題を見ていきます。

遺言執行者を指定しないとどうなるか

遺言執行者とは、遺言書の内容にもとづいて、実際に預貯金の解約や不動産の名義変更といった手続きを進める役割を担う人のことです。
遺言執行者を指定していない場合、相続人全員が協力して手続きを進める必要があり、相続人同士の関係が良好でなければ、手続きがスムーズに進まないことがあります。
特に、相続人の中に遠方に住んでいる方や、疎遠になっている方がいる場合、書類のやり取りだけでも時間がかかってしまうことがあります。
AIに遺言書の文案作成を依頼する際、財産の分け方については丁寧に条件を伝えても、「誰が手続きを進めるのか」という点まで意識される方は意外と少ないものです。
遺言執行者を指定しておけば、その方が単独で手続きを進められるため、相続人の負担を大きく減らすことができます。文案が完成した後は、遺言執行者を誰にするかも忘れずに検討しておきましょう。

ケース7|AIの文案には財産の分け方しかなく、実行する人が決まっていなかった場合

Gさん(60代女性)は、AIに相談しながら「長男に自宅を、長女に預貯金を相続させる」という内容の遺言書を作成しました。文案には財産の分配方法が明確に記載されていましたが、遺言執行者についての記載はありませんでした。
Gさんがお亡くなりになった後、長男と長女は不仲というわけではないものの、それぞれ遠方で暮らしており、平日に時間を合わせて金融機関や法務局へ出向くことが難しい状況でした。
遺言執行者の指定がなかったため、預貯金の解約や不動産の名義変更には、相続人全員の実印と印鑑証明書が必要になりました。
スケジュールを合わせるだけで数ヶ月かかり、当初想定していたよりも手続き全体が長引く結果となりました。
もしGさんが遺言書の中で長女を遺言執行者として指定していれば、長女単独で多くの手続きを進めることができ、負担はより軽くなっていたと考えられます。
財産の分け方だけでなく、「誰が実行するか」まで含めて考えることが、遺された家族の負担を減らす鍵になります。

付言事項(家族への想い)はAIには”書ききれない”部分

遺言書には、法的な効力を持つ本文とは別に、「付言事項(ふげんじこう)」として、家族への感謝の気持ちやこれまでの想いを書き添えることができます。
AIに相談すると、感謝のメッセージのサンプル文を提案してくれるサービスもありますが、そこで示されるのはあくまで一般的な例文にとどまります。
ご自身と家族との間にある、具体的な思い出や、伝えたい言葉のニュアンスまでは、AIが汲み取ることは難しいものです。
特に、財産の分け方に差をつけた場合は、その理由を付言事項で説明しておくことで、相続人が納得しやすくなるという側面もあります。「なぜこの配分にしたのか」という理由が書かれているかどうかで、遺された家族の受け止め方は大きく変わることがあります。
AIが提示するサンプル文をそのまま使うのではなく、ご自身の言葉で、伝えたい想いを書き加えることを意識してみてください。

運用面まで含めて初めて機能する遺言書という考え方

ここまで見てきたように、遺言書は「誰に何を渡すか」という財産の分配だけでなく、「誰が実行するか」「なぜその内容にしたのか」といった運用面の情報がそろって、初めて実際に機能するものになります。
AIは財産の分配については条件に沿って整理してくれますが、運用面の工夫は、こちらから意識して盛り込まない限り、文案には反映されません。
身元保証サービスや死後事務委任契約など、死後の手続きを第三者に任せる仕組みと遺言執行者の役割を組み合わせておくことで、より安心できる体制を整えることもできます。
遺言書の文案が完成した段階で満足するのではなく、「これで実際に手続きは進められるだろうか」という視点で、もう一度見直してみることをおすすめします。
財産の分け方と運用面の両方が整って初めて、遺された家族が迷わず動ける遺言書になります。

相続人での間でトラブルに発展した想定シナリオ

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ここまで見てきた遺留分・財産目録・相続人の把握・運用面という4つの見落としは、それぞれ単独でもトラブルの原因になり得ますが、複数が重なることで、相続人同士の関係に大きな影響を及ぼすこともあります。
最後に、AIの下書きをそのまま使ってしまったことがきっかけで、相続人間のトラブルに発展する想定シナリオを見ていきます。遺言書は本来、家族が争わずに済むように残すものです。しかし、AIとのやり取りが本人一人で完結してしまう性質上、内容の背景が誰にも共有されないまま完成してしまうことも少なくありません。

ケース8|AIの文案が特定の相続人に偏っていたことに他の相続人が気づいた場合

Hさん(80代男性)には、長男と次男の二人のお子さんがいました。長男は近くに住み、日常的にHさんの世話をしていた一方、次男は遠方で暮らし、疎遠になっていました。
Hさんは「お世話になっている長男に多く残したい」という気持ちから、AIに相談しながら、長男に多くの財産を渡す内容の遺言書を作成しました。しかし、その理由については特に書き残しませんでした。
Hさんがお亡くなりになった後、次男は自分の取り分が極端に少ないことに気づき、「なぜこんな内容になっているのか」と不信感を抱くようになりました。
次男は遺留分侵害額請求を行い、最終的には長男と次男の間で、金銭の支払いをめぐる話し合いが長期化する結果となりました。
Hさんの本来の想いは「お世話になった長男への感謝」だったはずですが、その理由が遺言書に残されていなかったことで、かえって兄弟間の溝を深める結果につながってしまいました。

「言った言わない」に発展しやすいAI下書きならではの落とし穴

AIとのやり取りは、あくまでご本人とAIとの一対一のやり取りです。家族が同席しているわけではないため、「なぜこの内容にしたのか」という背景は、ご本人以外には分かりません。
専門家に相談しながら遺言書を作成する場合、家族も交えて話し合う機会が設けられることもありますが、AIとの相談は個人で完結してしまいがちです。
その結果、遺言書が開示されて初めて内容を知った相続人が、「聞いていない」「なぜ自分だけ少ないのか」と感じ、おひとり様の遺産相続、兄弟に「いらない」と言われても油断は禁物な理由でも触れたような、口約束と実際の遺言内容とのズレが表面化することもあります。
「本人はきっと納得してくれるだろう」という思い込みだけで内容を決めてしまうと、遺された家族の間で認識のズレが生じやすくなります。
可能であれば、遺言書の方向性について、生前のうちに家族と大まかに共有しておくことも、トラブルを防ぐひとつの方法です。

トラブルを未然に防ぐために意識しておきたい視点

これまで見てきた想定シナリオに共通しているのは、AIが「間違った」文案を作ったわけではなく、伝えられた情報の範囲内で、忠実に文案を組み立てていたという点です。
言い換えれば、トラブルを防ぐ鍵は、AIの性能そのものではなく、「何を伝え、何を確認するか」という利用者側の姿勢にあるといえます。
遺留分を侵害していないか、財産に漏れがないか、相続人の範囲は正確か、実行する人は決まっているか――こうした点を、文案が完成した後にあらためて確認する習慣を持つことが大切です。
また、AI遺言書は法的に有効?知っておくべき要件と限界で解説しているとおり、AIが作成する文案はあくまで下書きであり、そのままでは法的に有効な遺言書にはなりません。
下書きが完成した段階を「終わり」にせず、「ここからが本当のチェックの始まり」ととらえることが、トラブルのない相続につながります。

個別事情の”洗い出し”は誰と一緒にやるべきか

ここまでご紹介してきた見落としの多くは、ご本人が家族関係や財産の全体像を、あらためて紙に書き出してみるだけでも、気づけるものが少なくありません。
とはいえ、遺留分の計算や、認知していないお子さんへの対応など、法律の専門知識が必要な場面では、行政書士や弁護士といった専門家の力を借りることも検討してみてください。
また、おひとり様の遺言書が無効になる5つの落とし穴と対処法で解説しているように、内容面だけでなく、書き方の形式面でも見落としが起こりやすいのが遺言書です。
AIは、個別事情を洗い出すための「たたき台」を作る相棒として活用しつつ、最終的な確認は専門家とともに行うという役割分担を意識してみましょう。
ひとりで抱え込まず、頼れる先を持っておくことが、安心できる遺言書づくりの第一歩になります。

まとめ|AIは”個別事情”まで見てくれるわけではない

AIは、遺言書作成の入り口として、気軽に相談できる心強い存在です。しかし、遺留分の計算、財産目録の記載漏れ、相続人の範囲、遺言執行者の指定、そして相続人同士の受け止め方まで、AIが自動的に汲み取ってくれるわけではありません。
大切なのは、AIが作った文案を「完成品」として扱うのではなく、「ここから確認すべきことがある下書き」として向き合う姿勢です。
ご自身の家族構成や財産状況を今一度整理し、伝えるべき情報を漏らさず伝えることが、個別事情を反映した遺言書への第一歩になります。
よりねこでは、遺言書の作成に関するご相談はもちろん、任意後見や死後事務委任契約とあわせた終活のご相談も承っております。AIとの相談だけで不安が残る場合は、お気軽にお問い合わせください。

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