遺言書がない場合のゼロからの進め方

親が亡くなったとき、「遺言書はありますか?」と聞かれてはじめて、遺言書の有無がこれほど大切だったと気づく方は少なくありません。遺言書がなければ相続は進まないのでは、と不安になる方もいらっしゃいますが、ご安心ください。
遺言書がなくても、相続手続きは法律の定めに沿ってきちんと進めることができます。ただし、遺言書がある場合と比べると、相続人全員が話し合いに参加する必要があるなど、手間と時間がかかる場面が増えることも事実です。
この記事では、遺言書がない状態からゼロで相続手続きをスタートさせる方に向けて、何をどの順番で進めればよいか、どんな期限に気をつければよいかを、順を追って丁寧に解説します。

目次

遺言書がない相続とは?まず全体像を把握しよう

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相続手続きは、亡くなった方(被相続人(ひそうぞくにん))の財産と負債を、残された方々が引き継ぐための一連の作業です。この手続きは「遺言書がある場合」と「ない場合」で、大きくルートが変わります。
遺言書がある場合は、基本的にその内容に従って財産を分けることができます。一方、遺言書がない場合は、民法の定める「法定相続分(ほうていそうぞくぶん)」というルールをベースにしながら、相続人全員が話し合って遺産の分け方を決めなければなりません。
この話し合いを「遺産分割協議(いさんぶんかつきょうぎ)」といいます。一人でも参加できない相続人がいると協議が成立しないため、まず誰が相続人なのかをきちんと確認するところから始める必要があります。

遺言書がある場合とない場合、何が変わるのか

遺言書がある場合、相続人は基本的に遺言の内容に従って財産を受け取ります。遺産分割について全員で話し合う必要がなく、手続きの窓口となる「遺言執行者(いごんしっこうしゃ)」が指定されていれば、よりスムーズに進みます。
遺言書がない場合は、相続人全員が協力して遺産分割協議を行い、全員の合意をもとに遺産分割協議書を作成しなければなりません。銀行口座の解約・不動産の名義変更など、主な手続きでは必ずこの協議書が必要になります。
また、遺言書がない場合、誰がどの財産を相続するかが法律で自動的に決まるわけではありません。相続人同士の話し合いで決める必要があるため、相続人の数が多かったり、関係が複雑だったりするほど、手続きに時間がかかりやすくなります。たとえば兄弟姉妹が5人いる場合、全員の合意が得られなければ手続きが前に進まないという状況になります。

遺言書がない相続で必要になる手続きの全体マップ

遺言書がない相続では、おおまかに次の順番で手続きを進めていきます。

  • 相続人・相続財産の調査(できるだけ早く)
  • 相続するかどうかの判断・選択(3ヶ月以内)
  • 準確定申告(4ヶ月以内)
  • 遺産分割協議と協議書の作成(相続税申告前まで)
  • 名義変更・相続登記(3年以内・義務)
  • 相続税の申告と納税(10ヶ月以内)

この流れで特に大切なのが「期限」の存在です。相続には法律で定められた期限がいくつかあり、期限を過ぎると選択肢が狭まったり、ペナルティが発生したりすることがあります。
全体の期限のなかで最も短く、かつ重要な判断を求められるのが「3ヶ月以内」の相続方法の選択です。その後、10ヶ月以内という相続税申告の期限も控えています。この記事では、それぞれの期限と内容を順を追ってご説明します。

手続きを進める前に確認しておきたいこと

手続きを始める前に、まず確認しておきたいことがあります。それは「遺言書が本当にないか」という点です。遺言書には自筆で書く「自筆証書遺言(じひつしょうしょいごん)」と、公証役場で作成する「公正証書遺言(こうせいしょうしょいごん)」の主な2種類があります。
自筆証書遺言は自宅の引き出しや金庫、法務局の遺言書保管制度を利用している場合はそちらに保管されています。公正証書遺言は全国の公証役場で「遺言検索システム」を使って調べることができます。
「遺言書はないはずだ」と思っていても、後から発見されるケースは珍しくありません。手続きを進めた後に遺言書が見つかると、やり直しが必要になる場合もあります。まず最初に、自宅の整理と公証役場への問い合わせを行い、遺言書の有無をきちんと確認してから次のステップに進むことをお勧めします。

相続人と相続財産を調べる(期限の目安:できるだけ早く)

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遺言書がないことを確認したら、次に行うのが「相続人の調査」と「相続財産の調査」です。この2つは、その後の手続きすべての土台になります。誰が相続人なのか、何が遺産に含まれるのかが明確でなければ、遺産分割協議も名義変更も進めることができません。
特に相続人の調査は、戸籍をたどることで初めて正確に把握できます。家族の間では「子どもは3人だけ」と思っていても、戸籍を調べてみると知らなかった相続人が存在するケースもあります。思い込みではなく、必ず戸籍という公的な書類で確認することが重要です。

相続人の調査はなぜ戸籍から始めるのか

相続人を確定するためには、亡くなった方(被相続人)の「出生から亡くなるまでの連続した戸籍謄本(こせきとうほん)」をすべて取り寄せる必要があります。なぜ出生まで遡るかというと、過去の婚姻歴や認知した子どもの有無を確認するためです。
たとえば、被相続人が若い頃に結婚と離婚を経験していた場合、その際に生まれた子どもも法定相続人になります。現在の家族が知らなかったとしても、法律上は相続権があるため、その方を除いた遺産分割協議は無効になります。
戸籍謄本の取り寄せ先は、被相続人が本籍を置いていた各市区町村の役所です。転籍を繰り返している場合は複数の役所から順番に取り寄せる必要があり、慣れていないと時間がかかります。法定相続情報証明制度(ほうていそうぞくじょうほうしょうめいせいど)を活用すると、戸籍の束を一枚の一覧図にまとめてもらえるため、その後の各種手続きがスムーズになります。

知らない相続人が出てくることがある?代襲相続と注意点

相続人の調査で注意が必要なのが「代襲相続(だいしゅうそうぞく)」です。本来相続人となるべき方(たとえば被相続人の子ども)がすでにお亡くなりになっている場合、その方の子ども(被相続人から見ると孫)が代わりに相続権を引き継ぎます。
たとえば、被相続人に子どもが2人いて、そのうち1人がすでに亡くなっていて、その子(孫)が3人いる場合、相続人は「もう1人の子ども」と「孫3人」の合計4人になります。孫3人は相続人として遺産分割協議に参加する必要があり、その合意が得られなければ手続きが止まってしまいます。
また、被相続人に子どもがいない場合は、相続順位が繰り上がり、被相続人の兄弟姉妹が相続人になることもあります。さらにその兄弟姉妹がすでにお亡くなりになっていれば、甥や姪が代襲相続人となる場合もあります。思いのほか多くの方が相続人になるケースがあるため、戸籍の調査は丁寧に行う必要があります。

財産調査の進め方|プラスの財産とマイナスの財産を洗い出す

相続財産には、預貯金・不動産・有価証券・生命保険(受取人次第)などの「プラスの財産」だけでなく、借金・ローン・保証債務などの「マイナスの財産」も含まれます。相続は財産すべてを引き継ぐことになるため、プラスとマイナスの両方を漏れなく把握することが重要です。
プラスの財産は、通帳・権利証・証券会社からの郵便物・生命保険の証書などを確認しながら洗い出します。不動産については、市区町村の役所で「名寄帳(なよせちょう)」を取り寄せると、故人が所有していた不動産の一覧を確認できます。
マイナスの財産については、信用情報機関(CICやJICC)に照会する方法もありますが、郵便物や自宅に届く書類を丁寧に確認するだけでも多くの負債を発見できます。
財産調査は3ヶ月以内の「相続方法の選択」に直結します。借金がどの程度あるかを把握しないまま「相続する」と決めてしまうと、後から多額の負債を背負うことになりかねません。できるだけ早く、丁寧に進めることが大切です。
なお、子どものいない夫婦の相続、配偶者に全部渡らないってほんと?でも解説していますが、相続人の範囲は家族構成によって大きく変わります。自分たちのケースに当てはめながら確認してみてください。

相続するかどうかを決める(期限:3ヶ月以内)

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相続人の調査と財産調査を進めながら、必ず3ヶ月以内に判断しなければならないのが「相続方法の選択」です。この選択は一度決めると原則として変更できないため、非常に重要なステップです。
相続方法には3つの選択肢があります。何も手続きをしないまま3ヶ月が過ぎると、自動的に「単純承認(たんじゅんしょうにん)」したとみなされ、財産も借金も無条件にすべて引き継いだことになります。そのため「まだ決められない」とのんびり構えていると、思わぬ負担を背負う結果になることがあります。

単純承認・限定承認・相続放棄の3つの選択肢

相続方法の選択肢は以下の3つです。

  • 単純承認(たんじゅんしょうにん):プラスの財産もマイナスの財産もすべて引き継ぐ。特別な手続きは不要で、何もしなければ自動的にこの選択になる
  • 限定承認(げんていしょうにん):プラスの財産の範囲内でのみマイナスの財産も引き継ぐ。財産がプラスかマイナスか不明な場合に有効だが、相続人全員で家庭裁判所に申し立てる必要があり、手続きが複雑
  • 相続放棄(そうぞくほうき):財産も負債も一切引き継がない。各相続人が単独で家庭裁判所に申し立てることができる

一般的に最もシンプルな選択は単純承認か相続放棄のどちらかです。限定承認は手続きが複雑であるため、専門家(弁護士・司法書士)への相談をお勧めします。

借金が多いときはどうする?相続放棄の手続きと流れ

財産調査の結果、借金がプラスの財産を大きく上回ることがわかった場合、相続放棄が有力な選択肢になります。相続放棄をすれば、被相続人の借金を引き継がずに済みます。
相続放棄の手続きは、家庭裁判所に「相続放棄申述書(そうぞくほうきしんじゅつしょ)」を提出することで行います。提出先は被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。申述書のほかに、被相続人の死亡が確認できる戸籍謄本などの添付書類が必要になります。
注意したいのは、相続放棄をすると相続権が次の順位の相続人に移る点です。たとえば子どもが全員相続放棄をした場合、被相続人の兄弟姉妹が相続人になることがあります。放棄の前に、次の順位の方への連絡と相談を行うことが、トラブル回避のために大切です。
また、相続放棄後も注意が必要な場面があります。相続放棄したら、借金は消えた。でも土地も手放せなくなったでも詳しく解説していますが、相続放棄をしても不動産の管理責任が残るケースがあります。放棄の際は財産の種類にも注意が必要です。

3ヶ月の期限を過ぎてしまったらどうなるのか

3ヶ月の熟慮期間(じゅくりょきかん)を過ぎてしまうと、原則として単純承認したものとみなされます。しかし、特別な事情がある場合には、家庭裁判所に「熟慮期間の延長」を申し立てることが認められています。
たとえば「財産の調査に時間がかかっている」「相続人が遠方にいてなかなか連絡が取れない」といった正当な理由がある場合、3ヶ月の期限内に家庭裁判所へ延長の申立てを行うことで、期間を延ばしてもらえる可能性があります。
また、「相続財産の存在を知らなかった」「被相続人との関係が疎遠で相続発生を知るのが遅れた」という特別な事情がある場合、期限を過ぎた後でも相続放棄が認められる例外もあります。期限が迫っている、あるいはすでに過ぎてしまったと気づいた場合は、早めに弁護士や司法書士に相談することをお勧めします。

準確定申告を忘れずに(期限:4ヶ月以内)

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相続が発生したとき、多くの方が見落としがちなのが「準確定申告(じゅんかくていしんこく)」です。聞き慣れない言葉ですが、亡くなった方に代わって相続人が行う所得税の申告手続きです。
通常の確定申告は翌年3月15日までに行いますが、準確定申告は「相続の開始を知った日の翌日から4ヶ月以内」という独自の期限が設けられています。この期限を過ぎると加算税や延滞税が課される可能性があるため、相続開始後の早い段階から意識しておく必要があります。

準確定申告とは何か、通常の確定申告と何が違うのか

準確定申告とは、亡くなった方(被相続人)が1月1日から亡くなった日までの期間に得た所得について、相続人が代わりに申告・納税する手続きです。被相続人が生前に確定申告をしていた方であれば、その年分の申告を相続人が引き継いで行う必要があります。
通常の確定申告との主な違いは、申告期限と申告義務者です。通常は本人が翌年3月15日までに申告しますが、準確定申告は被相続人の代わりに相続人全員が共同で申告を行い、期限は相続開始を知った日の翌日から4ヶ月以内です。
申告書の提出先は、被相続人の住所地を管轄する税務署です。相続人が複数いる場合は、代表者が申告書を提出し、他の相続人は「準確定申告書への各相続人等の同意」を示した書面を添付します。手続きの進め方が通常の確定申告とは異なるため、税理士への相談も選択肢の一つです。

申告が必要なケース・不要なケースの見分け方

準確定申告が必要かどうかは、被相続人の収入状況によって異なります。次のような方は申告が必要になるケースが多いです。

  • 給与収入が2,000万円を超えていた方
  • 給与以外の所得(不動産収入・事業収入など)が20万円を超えていた方
  • 2カ所以上から給与を受けていた方
  • 医療費控除や住宅ローン控除を受けていた方

一方、公的年金だけを受け取っていた方の場合、年金収入が400万円以下かつ他の所得が20万円以下であれば、原則として申告不要とされています。ただし、医療費控除を受けることで還付を受けられる場合もあるため、「不要かもしれない」と思ったときこそ、一度確認することが大切です。
判断に迷う場合は、税務署の相談窓口や税理士に問い合わせてみてください。確認を怠って申告が必要だった場合、後から加算税が発生することがあります。

期限を過ぎると加算税が発生する?ペナルティの内容

準確定申告の期限(4ヶ月以内)を過ぎてしまうと、「無申告加算税(むしんこくかさんぜい)」が課される可能性があります。無申告加算税は原則として納税額の15%(一定の条件下では20%)が加算されるもので、さらに期限を超えた日数に応じた「延滞税(えんたいぜい)」も発生します。
ただし、申告期限が過ぎた後であっても、税務署から指摘を受ける前に自ら申告した場合は、加算税の税率が5%に軽減されることがあります(期限後申告)。つまり、気づいた時点で速やかに手続きをすることが、ペナルティを最小限に抑えるために重要です。
準確定申告は相続手続きの中でも期限が最も短い部類に入ります。相続開始後は他の手続きも重なって慌ただしくなりがちですが、4ヶ月という期限を手帳やカレンダーに書き留めておき、税理士への相談も含めて早めに動くことをお勧めします。

遺産分割協議を進める(期限:相続税申告の前まで)

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相続手続きの中核となるのが「遺産分割協議(いさんぶんかつきょうぎ)」です。遺言書がない場合、相続人全員が一堂に会して(あるいは書面でやり取りしながら)、誰がどの財産を相続するかを話し合い、合意を形成する必要があります。
遺産分割協議には法律上の期限はありませんが、相続税の申告期限(10ヶ月以内)までに協議を終わらせることが実務上の目安です。申告期限までに協議がまとまらなかった場合、配偶者の税額軽減など有利な控除を適用できないまま申告しなければならないことがあり、税負担が増えるリスクがあります。

遺産分割協議とは何か、誰が参加しなければならないのか

遺産分割協議は、法律で定められた相続人全員が参加して初めて成立します。一人でも欠けていると協議は無効になります。相続人が遠方に住んでいたり、連絡が取りにくかったりする場合でも、書面(郵便や電子メールなど)でのやり取りで進めることは可能です。
協議の内容に制限はなく、必ずしも法定相続分(民法で定められた相続の割合)に従う必要はありません。たとえば「自宅は長男が引き継ぎ、預貯金は次女と分ける」というように、相続人全員が合意していれば自由に決めることができます。
ただし、相続人の中に認知症や知的障害などで判断能力が十分でない方がいる場合は、そのまま協議に参加させることができません。この場合は、家庭裁判所で成年後見人(せいねんこうけんにん)を選任してもらった上で、後見人が代わりに協議に参加することになります。手続きに時間がかかるため、早めに対応を検討することが大切です。

遺産分割協議書の作り方と注意点

遺産分割協議がまとまったら、必ず「遺産分割協議書(いさんぶんかつきょうぎしょ)」を作成します。この書面がなければ、銀行口座の解約・不動産の名義変更・相続税申告など、ほぼすべての相続手続きを進めることができません。
協議書には、相続人全員が署名し、実印を押印します。また、各相続人の印鑑登録証明書を添付することが求められます。記載する内容は「誰がどの財産を取得するか」を具体的に、かつ正確に記す必要があります。不動産は登記事項証明書(とうきじこうしょうめいしょ)の表題部をそのまま転記し、預貯金は金融機関名・支店名・口座種別・口座番号まで記載します。
協議書が2ページ以上になる場合は、全員の実印による「契印(けいいん)」が必要です。記載内容に不備があると法務局や金融機関で受け付けてもらえないことがあるため、不安な場合は司法書士や弁護士に作成を依頼することを検討してください。
また、相続でハンコが不要になる?2026年民法改正案のポイントと今できる備えでも触れていますが、将来的には協議書の押印ルールが変わる可能性もあります。最新の情報も確認しながら進めてください。

まとまらないときはどうする?調停・審判という選択肢

相続人の間で話し合いがまとまらない場合、家庭裁判所に「遺産分割調停(いさんぶんかつちょうてい)」を申し立てる方法があります。調停では、裁判所の調停委員が間に入って話し合いの仲介をしてくれます。申立人と相手方が交互に調停室に入り、それぞれの意見を調停委員に伝える形で進むため、顔を合わせずに話し合いを進めることができます。
調停でも合意に至らない場合は「審判(しんぱん)」に移行し、裁判所が法定相続分などをもとに遺産の分け方を決定します。調停から審判まで数ヶ月〜1年以上かかることもあるため、できれば協議の段階で解決策を見つけることが望ましいです。
特定の相続人に介護の貢献がある場合は「寄与分(きよぶん)」、生前に多額の援助を受けた相続人がいる場合は「特別受益(とくべつじゅえき)」という制度があり、これらを主張することで協議の落としどころを見つけやすくなることがあります。ただし、主張するためには客観的な証拠が必要です。

遺言書がないと揉めやすい?よくあるトラブルのパターン

遺言書がない場合、相続のトラブルは決して珍しくありません。司法統計によると、家庭裁判所に持ち込まれる遺産分割事件の件数は近年増加傾向にあります。
よくあるトラブルのパターンとしては、「介護をしてきた相続人が法定相続分では不公平だと感じる」「生前に多額の援助を受けた相続人がいるのに同じ割合で相続しようとしている」「不動産を共有相続したが売却か維持かで意見が割れる」などが挙げられます。
こうしたトラブルを防ぐためには、被相続人が生前に遺言書を残しておくことが最善ですが、すでに相続が発生している場合は、感情的にならず話し合いを続けることと、専門家への早期相談が解決の近道です。
なお、二次相続まで考えると、配偶者に全部渡すのが損になる理由でも解説しているように、配偶者にすべての財産を集めることが長期的に見て最善でないケースもあります。分割の際は将来の相続も見据えた視点が大切です。

名義変更と相続登記を行う(期限:3年以内・義務)

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遺産分割協議がまとまったら、いよいよ各財産の名義変更の手続きに入ります。なかでも不動産の名義変更(相続登記)は、2024年4月から法律で義務化されており、正当な理由なく放置すると10万円以下の過料(かりょう)が科される可能性があります。
名義変更の手続きは財産の種類によって申請先が異なり、それぞれ必要書類も違います。遺産分割協議書や戸籍謄本などの書類をまとめて準備しておくと、複数の手続きを効率よく進めることができます。

2024年から義務化された相続登記、放置するとどうなるのか

2024年4月1日以降、不動産を相続した方は、相続によって所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請することが義務となりました。この義務化は、過去に相続した不動産にも適用されます(2024年4月1日以前に相続が発生していた場合も、2027年3月31日までに登記を行う必要があります)。
登記を怠った場合、法務局からの督促を経て、正当な理由なく申請しなかった場合は10万円以下の過料が科されることがあります。また、登記されないままの不動産は売却・担保設定ができないため、財産として活用することが難しくなります。
相続登記の申請先は、不動産が所在する地域を管轄する法務局です。申請書・遺産分割協議書・相続関係を示す戸籍謄本一式・固定資産評価証明書などが必要になります。複数の不動産が異なる管轄にある場合は、それぞれの法務局に申請する必要があります。法定相続情報一覧図を活用すると、戸籍謄本の提出を簡略化できるため便利です。

不動産以外の名義変更|預金・株式・自動車の手続き

相続登記のほかにも、各財産の名義変更手続きが必要です。財産の種類ごとに手続き先と必要書類が異なります。
預貯金については、亡くなった方の口座がある金融機関に「相続届」や所定の書類を提出します。遺産分割協議書・相続人全員の印鑑登録証明書・被相続人の出生から亡くなるまでの戸籍謄本・各相続人の戸籍謄本が一般的に求められます。金融機関によって書式が異なるため、事前に各窓口に確認しておくと安心です。
有価証券(株式・投資信託など)については、証券会社に相続手続きを依頼します。被相続人の口座から相続人名義の口座に移管する手続きが必要で、口座を持っていない相続人は新たに口座を開設しなければならない場合があります。
自動車については、運輸支局(陸運局)で名義変更の手続きを行います。車検証・印鑑登録証明書・遺産分割協議書などが必要です。自動車保険の名義変更も忘れずに行いましょう。

手続き先と必要書類の一覧

名義変更に共通して必要となる書類としては、被相続人の出生から亡くなるまでの連続した戸籍謄本・相続人全員の戸籍謄本・相続人全員の印鑑登録証明書・遺産分割協議書(原本)・被相続人の住民票除票(じゅうみんひょうじょひょう)などが挙げられます。
これらの書類は複数の手続きで共通して使用しますが、金融機関・法務局・各種窓口によっては原本の提出を求められる場合があります。あらかじめ多めにコピーを取っておき、どこで原本が必要になるかを整理してから手続きを進めると効率的です。
特に印鑑登録証明書には発行から3〜6ヶ月以内という有効期限を設けている機関が多いため、手続きの順番を決めてから必要なタイミングで取得するようにしましょう。書類の準備と手続きの順番を整理しておくことが、スムーズな相続完了への近道です。

相続税の申告と納税(期限:10ヶ月以内)

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相続税の申告・納税は、相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に行う必要があります。この期限は延長が認められておらず、原則として10ヶ月以内に申告と納付をともに完了しなければなりません。
ただし、すべての相続に相続税がかかるわけではありません。まず「自分の場合に相続税がかかるかどうか」を確認することが先決です。相続税がかかると知らずに申告を怠ったり、逆に「かからない」と思い込んで申告義務を見落としたりするケースがあるため、慎重に確認することが大切です。
相続税がかからないと思っていたら、申告だけは必要だったケースでも詳しく解説していますが、税額がゼロでも申告が必要なケースがあるため要注意です。

相続税がかかるかどうかの判断基準と基礎控除の考え方

相続税がかかるかどうかは、遺産の総額が「基礎控除額(きそこうじょがく)」を超えるかどうかで判断します。基礎控除額は次の計算式で求めます。

  • 基礎控除額 = 3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)

たとえば法定相続人が3人の場合、基礎控除額は3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円になります。遺産の課税対象総額がこの金額以下であれば、相続税はかかりません。
ここでいう「遺産の課税対象総額」には、預貯金・不動産・有価証券・生命保険金(一定額を超える部分)などが含まれます。一方で、墓地・仏壇などは非課税財産として扱われます。
基礎控除の他にも、配偶者がいる場合は「配偶者の税額軽減(はいぐうしゃのぜいがくけいげん)」として1億6,000万円または法定相続分相当額のいずれか多い額まで非課税になる制度があります。ただし、この軽減を受けるためには相続税の申告が必要です。税額がゼロになる場合でも申告手続きを忘れないようにしましょう。

申告が必要なのにしなかった場合のリスク

相続税の申告が必要なのに期限内に行わなかった場合、「無申告加算税」が課されます。税務署から指摘を受ける前に自ら申告した場合は税率が軽減されますが、税務調査によって発覚した場合は15〜20%の加算税に加え、延滞税も発生します。
税務署は、不動産の登記情報・金融機関からの情報・生命保険金の支払い記録などを把握しており、相続税申告の要否を確認しています。「申告しなければわからない」と思っていても、税務調査が入るケースは珍しくありません。
また、悪意があると判断された場合には「重加算税(じゅうかさんぜい)」として35〜40%の加算税が課されることもあります。申告義務があるかどうか判断に迷う場合は、税理士や税務署の窓口に早めに相談することをお勧めします。

納税が難しい場合の対処法|延納・物納という選択肢

相続税は原則として現金での一括納付です。しかし、遺産の多くが不動産であるなど、現金の用意が難しい場合には「延納(えんのう)」や「物納(ぶつのう)」という制度を利用できる場合があります。
延納とは、一定の要件を満たす場合に相続税を分割して支払う制度です。最長20年間に分けて納付することができますが、延納期間中は利子税がかかります。延納の申請は相続税の申告期限(10ヶ月以内)までに行う必要があります。
物納とは、現金ではなく相続した財産(不動産・有価証券など)をそのまま国に納付する制度です。延納でも対応が難しい場合の最終手段として位置づけられています。物納に充てられる財産には条件があり、抵当権などの担保が設定されていると物納できないケースもあります。
延納・物納ともに申請書類の準備が必要で、税務署の審査があります。納税に不安がある場合は、申告期限が来る前に税理士に相談し、早めに準備を進めることが重要です。

遺言書がない相続を乗り越えるために|まとめ

遺言書がない相続は、確かに手続きの手間がかかります。相続人の調査から始まり、財産の把握、期限内の選択と申告、そして遺産分割協議と名義変更まで、多くのステップを踏む必要があります。
ただ、一つひとつの手続きには法律的な根拠があり、順番と期限さえ把握していれば、着実に進めることができます。この記事でご紹介した流れを振り返ると、次のようになります。

  • まず遺言書の有無を確認する
  • 相続人と相続財産を戸籍と書類で調査する
  • 3ヶ月以内に相続方法(承認・放棄)を決める
  • 4ヶ月以内に準確定申告を行う
  • 遺産分割協議を進め、協議書を作成する
  • 不動産の相続登記(3年以内・義務)と各財産の名義変更を行う
  • 10ヶ月以内に相続税の申告と納税を完了させる

手続きを進める中で、「自分の場合はどうすればいいのだろう」と迷う場面は必ず出てきます。特に、相続人が多い・不動産が複数ある・借金の有無が不明・相続税がかかりそうといったケースでは、早めに専門家に相談することで、余計なトラブルを避けることができます。
よりねこでは、おひとり様の終活や相続に関するご相談を承っております。「何から手をつければいいかわからない」という段階からでもお気軽にお問い合わせください。

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