「相続の手続きにハンコはいらなくなる」という話を耳にしたことはありますか?
ニュースや行政の動きを見ていると、たしかに遺言の分野でハンコを不要にする法改正の動きが進んでいます。ただ、2026年6月現在、実際の相続手続きではまだハンコ(押印)が必要な場面が多く残っています。
今後どう変わるのか、今は何が必要なのか、混乱しやすい部分をわかりやすく整理しました。
「何が変わって、何が変わっていないのか」を正確に知ることが、後悔のない相続準備への第一歩です。
相続でハンコが必要な場面は今もこんなにある

「ハンコ不要」の話題が広まると、「じゃあ相続の手続きももうハンコはいらないの?」と思われる方もいらっしゃいます。しかし2026年6月時点では、相続に関わる多くの手続きで引き続きハンコ(実印や印鑑証明書)が求められています。まずは現状をしっかり確認しておきましょう。押印が必要な場面を知っておくことで、いざというときに慌てずに動けます。
「変わった」と思い込んで準備を怠ると、手続きが止まってしまうことにもなりかねません。以下では、現在もハンコが必要な代表的な4つの場面をひとつひとつ確認していきます。
遺産分割協議書への実印押印と印鑑証明書
相続人が複数いる場合、誰がどの財産を受け取るかを話し合いで決める「遺産分割協議(いさんぶんかつきょうぎ)」が必要になります。その合意内容を書面にまとめたものが「遺産分割協議書」です。
この遺産分割協議書には、相続人全員が実印(じついん)を押印し、さらに各自の印鑑証明書を添付することが求められています。これは昭和30年の法務省通達(民事甲第742号)以来続いてきた実務上のルールです。
実印と印鑑証明書のセットで「この人が本当に合意した」ことを証明する仕組みになっており、2026年6月現在も変更はありません。
たとえば兄弟3人で親の遺産を分ける場合、全員が各自の市区町村で印鑑登録をしていなければ手続きが進みません。遠方に住む兄弟や、日ごろ実印を使わない方にとっては思わぬ手間になることもあります。
相続登記(不動産の名義変更)での扱い
被相続人(お亡くなりになった方)が不動産を所有していた場合、法務局で名義を変える「相続登記(そうぞくとうき)」が必要です。2024年4月からは相続登記が義務化され、相続を知った日から3年以内に申請することが求められるようになりました。
遺産分割協議書を添付して相続登記を申請する場合、法定相続人(ほうていそうぞくにん)のうち登記申請人(新たに所有者となる方)以外の相続人全員が遺産分割協議書に実印を押印し、印鑑証明書を提出する必要があります。
なお、申請人本人については印鑑証明書の添付を省略できる取り扱いがありますが、合意の証明として実印での押印が実務上求められることが一般的です。
法務局では印鑑証明書に有効期限の定めがなく、被相続人がお亡くなりになる前に取得したものでも受け付けてもらえるケースがほとんどです。ただし、提出先によって取り扱いが異なることもあるため、事前の確認をおすすめします。
金融機関の相続手続きと印鑑証明書
銀行や証券会社、郵便局などで被相続人の口座を解約したり、残高を払い戻したりする際にも、印鑑証明書の提出を求められることが一般的です。
金融機関は法務局と異なり、独自のルールで印鑑証明書の「有効期限」を設けているところがほとんどです。多くの場合、発行から3か月以内や6か月以内など期限が定められており、手続きのタイミングによっては取り直しが必要になることもあります。
複数の金融機関に口座がある場合、それぞれの窓口で必要書類を確認してから動くようにしましょう。
また、金融機関によっては独自の「相続届出書」の書式を用意しており、その書式への押印や実印の捺印(なついん)を求めるケースもあります。口座がある金融機関に早めに問い合わせておくと、手続き全体がスムーズに進みます。
遺言書(自筆証書遺言)への押印ルール
「自筆証書遺言(じひつしょうしょゆいごん)」とは、遺言者本人が遺言の全文・日付・氏名を手書きし、押印することで効力を持つ遺言書のことです。民法968条に定められており、長年使われてきた最もシンプルな遺言の形式です。
現行のルールでは、この押印がなければ遺言書は無効になります。どんなに丁寧に書かれていても、押印が抜けていれば法的効力が認められません。認印(みとめいん)でも法律上は有効とされていますが、遺言の真正性(しんせいせい)を高める観点から実務では実印が推奨されています。
なお、自筆証書遺言の押印要件については、後述する2026年4月の民法改正案に廃止の方向性が盛り込まれています。ただし、2026年6月現在はまだ法案成立前であり、現時点では押印が法律上必要です。
2026年4月、政府が閣議決定した民法改正案の概要

2026年4月3日、政府は「民法等の一部を改正する法律案」を閣議決定(かくぎけってい)しました。遺言のデジタル化や押印廃止を盛り込んだ内容で、各メディアでも大きく報じられました。ただ、「閣議決定=すぐ変わる」ではありません。現在の状況と、改正の中身を正確に把握しておきましょう。
「いつ使えるようになるの?」「今持っている遺言書はどうなるの?」そうした疑問をひとつひとつ解消していきます。改正の背景から施行スケジュールまで、正確な情報をもとに順を追って確認していきましょう。
改正が動き出した背景|高齢化と手書き負担の問題
今回の改正が議論されるようになった背景には、日本社会の急速な高齢化があります。遺言を作成する年齢層の方々が増え続けている一方で、現行制度が高齢者の実情に合っていないという声が長年上がっていました。
自筆証書遺言は、遺言の全文を手書きしたうえで押印することが条件です。「手が震えて字が書けない」「長文を書き続ける体力がない」「誤字があって書き直しを繰り返している」というご高齢の方の声は、決して珍しいものではありません。
財産目録(ざいさんもくろく)の部分についてはパソコンでの作成が2019年の法改正で認められましたが、遺言本文の手書き義務は変わっていませんでした。
また、単身で暮らすおひとり様の増加も背景にあります。家族に相談しにくい、遺言書の存在を誰かに伝えにくいという状況の中で、遺言制度のアクセスしやすさを高めることが社会的な課題とされてきました。こうした積み重ねが、今回の改正議論につながっています。
閣議決定とはどういう段階か|まだ法律ではない
「閣議決定された」という言葉を聞くと、「もう変わった」と受け取ってしまう方もいらっしゃいます。しかし閣議決定は、あくまでも「政府として法案を国会に提出する方針が固まった」という段階です。法律として成立するには、その後の国会審議と可決が必要です。
今回の民法改正案は、2026年4月3日に閣議決定されたばかりで、2026年6月現在、まだ国会での成立前の段階にあります。法律が成立し、その後さらに施行日が定められて初めて新しいルールが適用されます。
現時点で「もう押印は不要なんですね」と誤解したまま準備を進めてしまうと、手続きが無効になるリスクがあります。正確な情報の確認が大切です。
今回の改正案に盛り込まれた2つの柱
2026年4月の民法改正案には、遺言制度に関して大きく2つの内容が盛り込まれています。
1つ目は、「保管証書遺言(ほかんしょうしょゆいごん)」という新しい遺言方式の創設です。パソコンやスマートフォンで遺言を作成し、法務局に提出・保管する仕組みで、「デジタル遺言」とも呼ばれています。手書き不要・押印不要で遺言が作れる画期的な方式として注目されています。
2つ目は、既存の「自筆証書遺言」や「秘密証書遺言(ひみつしょうしょゆいごん)」の押印要件の廃止です。現在、遺言書には押印が法律上必須ですが、この要件をなくす方向性が示されています。
なお、今回の改正案では成年後見制度(せいねんこうけんせいど)の見直しも同時に閣議決定されており、老後の生活を支える制度全体のリニューアルが進んでいます。
自筆証書遺言の押印廃止|何がどう変わるのか

「遺言のハンコが不要になる」という話題の中で、最もわかりやすい変化のひとつが自筆証書遺言の押印廃止です。ただ、「押印がなくなる」というだけでなく、その内容をしっかり理解しておくことが大切です。変わること・変わらないこと・注意すべきリスクを丁寧に整理します。
現在の法律で定められた押印の役割をまず理解し、それが変わることで何が起きるかを順に見ていきましょう。
現行の自筆証書遺言に押印が必要な理由
現行の民法968条では、自筆証書遺言は「全文・日付・氏名を自書し、押印する」ことが有効要件とされています。このうち押印が求められてきた主な理由は2つあります。
1つ目は「本人の意思の確認」です。遺言者本人がその内容に合意していることを示す証しとして、押印(特に実印)が機能してきました。押印された印影と印鑑証明書を照合することで、本人が本当にその遺言書を作成したことの証明力が高まります。
2つ目は「遺言書の完成の証明」です。書き途中の下書きと完成した遺言書を区別するため、最後に押印することが「この文書が完成した遺言として意図されたもの」を示す役割を果たしてきました。
これらの理由から、押印は遺言の真正性(しんせいせい)を支える重要な要素として長年機能してきたのです。
改正案で押印が不要になる範囲と残るルール
今回の改正案では、自筆証書遺言・秘密証書遺言・特別の方式による遺言(危急時遺言など)について、遺言者・証人・立会人の押印要件を廃止する方向が示されています。
ただし、押印が不要になるからといって、自筆証書遺言そのものがパソコンで作れるようになるわけではありません。全文・日付・氏名を「自書(手書き)」するという骨格は維持されます。変わるのは押印の要件のみです。
「Wordで書けばよくなる」という理解は誤りで、「手書きは必要だが、最後の押印はしなくてもよくなる(予定)」というのが正確な内容です。
また、財産目録の各ページへの押印や、訂正時の押印(加除の押印)も不要になる方向が示されています。書き間違えたときの訂正ルールが簡略化される見通しです。
押印廃止の施行スケジュール|公布から1年以内の予定
自筆証書遺言の押印廃止については、法案成立後の「公布の日から起算して1年を超えない範囲内」で施行される予定とされています。これは他の改正内容(保管証書遺言の新設など)よりも比較的早い施行が想定されています。
ただし、2026年6月現在、法案はまだ国会で審議中であり、成立時期・公布時期ともに未確定です。「もうすぐ施行される」という前提で動くことは、現時点では時期尚早です。
今後の国会の審議状況や法務省からの発表を引き続き確認していく必要があります。
なお、新たな遺言方式である保管証書遺言(デジタル遺言)については、システム整備に時間がかかるため、公布から3年以内の施行とされており、2028年度中になるとの見方が有力です。押印廃止とデジタル遺言の施行は異なるタイミングになる見込みです。
手書きの遺言書が無効になるリスクが増える可能性
押印廃止が実現すると、遺言書の真正性(本当に本人が書いたものかどうか)を証明する手段が「筆跡」だけになります。これは一見シンプルに見えますが、専門家からは懸念の声も上がっています。
押印があれば、印影と印鑑証明書を照合することで「本人の遺言」であることの証明力が高まります。ところが押印がなくなると、相続人の一人が「これは親の字ではない」と主張した場合、筆跡鑑定(ひっせきかんてい)という高額で時間のかかる手続きに発展するリスクが出てきます。
たとえば、相続人3人のうち1人が「遺言書の筆跡がおかしい」と言い出した場合、鑑定結果が出るまで相続手続き全体が止まってしまうこともあります。
法律上の義務がなくなっても、遺言の内容をめぐるトラブルを防ぐためには、実印での押印を続けることが専門家の間でも推奨されています。「不要になる=やめてよい」ではなく、「任意でも押印しておくほうが安全」という視点を持つことが大切です。
デジタル遺言(保管証書遺言)とはどんな制度か

今回の民法改正案で最も注目されているのが、「保管証書遺言」という新しい遺言方式の創設です。「デジタル遺言」とも呼ばれるこの制度は、これまでの遺言の常識を大きく変える可能性を持っています。ただし、2026年6月現在はまだ利用できません。制度の中身と利用可能になる時期を正確に理解しておきましょう。
パソコン・スマホで遺言を作成できる新しい方式
保管証書遺言は、パソコンやスマートフォンを使って遺言の全文を作成し、そのデータを法務局に提出・保管する遺言方式です。これまで「全文手書き」が原則だった自筆証書遺言の大きなハードルを取り除く制度として設計されています。
遺言本文をワード等で入力したデータ、または印刷した書面を法務局(遺言書保管所)に提出します。提出の際は、本人確認と遺言内容の意思確認(口述)が行われます。対面またはビデオ会議(ZoomやGoogle Meetのような仕組み)による面談が予定されており、なりすましや強制による遺言を防ぐ仕組みが組み込まれます。
押印は不要で、マイナンバーカードによる電子署名などで本人確認をする方向が検討されています。
手が震えて字が書けない方、多くの財産を細かく書き記したい方、書き間違いのリスクをなくしたい方にとって、非常に使いやすくなる制度です。修正したい場合も、新しいデータを作成して再度提出するだけでよい見込みです。
法務局への保管と本人確認の流れ
保管証書遺言の大きな特徴のひとつは、「法務局が遺言データを保管する」という点です。自宅で保管する自筆証書遺言にあった「紛失・隠匿・改ざん」のリスクを大幅に低減できます。
現行の自筆証書遺言書保管制度(2020年開始)でも法務局での保管は可能ですが、作成段階では手書きが必要です。保管証書遺言では、作成から保管まで一貫してデジタルで完結できる点が異なります。
自宅から法務局に遺言データを提出し、職員との面談(オンライン対応も予定)を経て保管が完了します。法務局に保管された遺言は、相続開始後に相続人が検索・閲覧できる仕組みになる見込みです。
また、今回の改正案では、既存の自筆証書遺言書保管制度についてもオンライン申請ができるようになる見通しが示されています。遺言を取り巻く手続き全体の利便性が高まっていく方向です。
検認が不要になるメリットと自筆証書遺言との違い
遺言書の種類によっては、相続が始まった後に家庭裁判所で「検認(けんにん)」という手続きが必要になります。検認とは、遺言書の状態を確認し、偽造・変造を防ぐための手続きです。相続人全員に連絡し、書類を揃えて申し立てると、手続き完了まで数か月かかることもあります。
法務局で保管されている自筆証書遺言や、公正証書遺言(こうせいしょうしょゆいごん)はすでに検認が不要です。今回新設される保管証書遺言についても、検認は不要になる見込みです。
検認が不要になることで、相続が始まってすぐに銀行手続きや相続登記に着手できます。裁判所への申し立て費用や時間も節約できるため、残されたご家族の負担を大きく軽減できます。
現行の自筆証書遺言(手書き・押印・自宅保管)との最大の違いは、「作成の手軽さ」「保管の安全性」「検認の省略」の3点です。一方、保管証書遺言は法務局への手続きが必要なため、完全に自宅だけで完結するわけではない点も理解しておきましょう。また任意後見制度と組み合わせることで、認知症になる前後の財産管理と遺言を連動させた備えができます。任意後見についての詳しい内容は【初心者向け】任意後見でできることを解説|財産・介護・住まいの場面別ガイドもあわせてご覧ください。
施行は2028年度中の見込み|今すぐは使えない
保管証書遺言の創設は、法案成立後の「公布の日から3年以内」に施行される予定とされています。実際には法務局のシステム整備が必要なため、2028年度中の施行になるとの見方が専門家の間で有力です。
2026年6月現在、法案はまだ国会で審議中であり、成立時期も確定していません。「スマホで遺言を作れる」という制度が実際に使えるようになるのは、早くても2028年以降になる見通しです。
「来年から使える」「もう使える」という情報を見かけることがありますが、現時点ではそのような状況にはありません。制度の詳細や施行日については、法務省の公式発表を定期的に確認することをおすすめします。
一方で、公正証書遺言については2025年10月からすでにデジタル化が進んでいます。公証役場に出向かずにオンライン(Web会議)で公正証書遺言を作成・電子保存できる仕組みが始まっており、こちらは今すぐ利用可能です。
押印廃止で遺言をめぐるトラブルが増える?注意点と対策

押印が不要になることは「便利になる」という面もありますが、一方で遺言の有効性をめぐる新たなリスクも生まれます。専門家の間でも懸念の声が上がっており、法律が変わった後もどう備えるかを今から考えておくことが大切です。
制度が便利になることと、安全に遺言を残せることは別の話です。制度変更の前後を通じて大切なことを確認していきましょう。
筆跡だけになることで生じる「なりすまし・真正性」の問題
現行のルールでは、自筆証書遺言に実印を押し、印鑑証明書を添付しておくことで「この遺言書は本人が作成したもの」という証明力が高まります。押印のある遺言書で相続人から異議が出ることは比較的少なく、手続きもスムーズに進みやすいのが実情です。
押印廃止が実現した場合、本人確認の証拠は「筆跡」だけになります。相続人の誰かが「これは親の字ではない」「誰かに強制されて書かされた」と主張した場合、筆跡鑑定や裁判で解決する必要が出てくる可能性があります。
筆跡鑑定は数十万円単位の費用がかかることもあり、手続きが長期化することで相続人全員に負担がかかります。また相続人同士の信頼関係が損なわれ、家族関係に深いひびが入るケースも懸念されます。
「自分の家族はそんな争いはしない」と思っていても、遺産分割は予期しない方向に発展することがあります。法律上の義務がなくなっても、リスクを減らすために押印を続けることは十分に合理的な選択です。
法律上不要でも押印しておいたほうがよいケース
押印廃止が施行された後も、以下のような状況では任意で押印しておくことを専門家は推奨しています。
まず、相続人が複数いる場合です。相続人が多いほど、遺言の内容に不満を持つ方が出てくるリスクが高まります。遺言書の真正性について疑義を挟む余地を与えないためにも、押印(できれば実印)と印鑑証明書の添付をしておくことが有効です。
次に、不動産や事業用財産など高額・複雑な財産が含まれる場合です。相続税申告(そうぞくぜいしんこく)や法的手続きが複数絡む場合、遺言の有効性が揺らぐと全体の手続きに連鎖して影響します。
また、おひとり様で身元を証明できる家族がいない方の場合、遺言書の真正性を後から補強できる手段が限られます。生前から公正証書遺言や保管証書遺言(施行後)を選択することも、ひとつの安全策です。
今持っているハンコ付きの遺言書はどうなるか
現在すでに押印済みの自筆証書遺言をお持ちの方は、改正後も安心していただいて問題ありません。押印廃止はあくまでも「押印しなくてよい」という方向への変更であり、「押印した遺言が無効になる」わけではありません。
押印のある遺言書は、改正後もそのまま有効です。むしろ「本人の意思を示す証拠がより多い」という意味で、証明力の高い遺言書として機能し続けます。専門家からも「わざわざ押印のない形式に書き直す必要はまったくない」とのコメントが出ています。
これまでの準備を無駄にする必要はなく、押印済みの遺言書はそのまま大切に保管してください。
一方で、内容が古くなっている場合(相続人の構成が変わった、財産の状況が変わったなど)は、法改正のタイミングとは関係なく、定期的に内容を見直しておくことが大切です。遺言書の内容と実際の状況がずれていると、残されたご家族が困ることになります。おひとり様の遺産相続、兄弟に「いらない」と言われても油断は禁物な理由でも遺産分割をめぐる注意点を詳しく解説していますので、あわせてご参照ください。
遺産分割協議書と相続登記の押印は当面変わらない

今回の民法改正案は「遺言の押印廃止」が中心であり、遺産分割協議書や相続登記における押印ルールは対象外です。「相続全般でハンコが不要になる」と誤解されやすい部分ですが、2026年6月現在はもちろん、改正案が成立した後も、遺言以外の相続手続きでは実印・印鑑証明書が必要な場面が続きます。
混乱しやすいポイントを整理し、現在のルールと今後の見通しを正確に把握しておきましょう。
遺言以外の相続手続きへの影響は現時点でなし
今回閣議決定された民法改正案の内容は、遺言制度(自筆証書遺言の押印廃止・保管証書遺言の新設)と成年後見制度の見直しが主な柱です。遺産分割協議書への押印、相続登記に必要な印鑑証明書、金融機関への印鑑証明書提出といったルールは、今回の改正案の対象に含まれていません。
「ハンコ廃止」の報道をきっかけに「相続手続き全体でハンコが不要になった」と思い込んでしまうことが、実務上のトラブルの原因になるケースがあります。押印廃止の対象はあくまでも遺言書の形式的要件に限られており、遺産分割や不動産登記のルールとは別の話です。
遺産分割協議書には引き続き実印と印鑑証明書が必要
相続人が複数いて、遺産の分け方を話し合いで決める場合は、遺産分割協議書(いさんぶんかつきょうぎしょ)に全員の実印を押し、印鑑証明書を添付する必要があります。これは改正後も変わりません。
遺言書がある場合は遺産分割協議が不要になることもありますが、遺言書に記載のない財産が出てきた場合や、遺言の内容と異なる分割を相続人全員が合意する場合には、遺産分割協議書の作成が必要です。
おひとり様の場合、相続人が兄弟姉妹(きょうだいしまい)や甥・姪(おい・めい)になることもあります。遠方に住んでいたり、長年疎遠だったりする場合、実印の取得から協議書への押印まで手間がかかることも少なくありません。こうした状況への備えとして、任意後見と法定後見、どちらが向いている?選び方のポイントもあわせてご確認ください。
今後の動向を見守りつつ、現行ルールで動くことが大切
法制度は少しずつ変化しています。今後、遺産分割協議書や相続登記の押印ルールが議論される可能性はゼロではありません。しかし、現時点ではそのような改正の具体的な動きはなく、当面は現行ルールが続くと考えて問題ありません。
制度が変わるかもしれないという情報を見聞きしたとき、「変わった」と「変わる予定がある」は大きく違います。「閣議決定された=すぐ使える」「改正の動きがある=もう不要」という誤解が、手続きのミスや書類の無効につながることがあります。
信頼できる情報源として、法務省や法務局の公式発表を定期的に確認することをおすすめします。相続手続きを実際に進める段階では、司法書士(しほうしょし)や行政書士(ぎょうせいしょし)などの専門家に確認しながら進めることが、トラブルを防ぐ最善の方法です。
まとめ|ハンコ不要時代の前に、今できる備えを
「相続でハンコが不要になる」という話題は、2026年4月の民法改正案の閣議決定が背景にあります。しかし、正確には「遺言書(自筆証書遺言等)の押印要件が廃止される方向」であり、遺産分割協議書や相続登記の実印・印鑑証明書については、2026年6月現在も引き続き必要です。
改正案はまだ国会で成立前であり、押印廃止の施行は「公布から1年以内」、デジタル遺言(保管証書遺言)の利用は「2028年度中」の見込みです。「もう変わった」と思い込んで手続きを進めてしまうと、書類の無効や手続きのやり直しといったトラブルにつながりかねません。
一方で、今回の改正の方向性は「遺言を残しやすくする」ことであり、これまで遺言書の作成に二の足を踏んでいた方にとっては朗報です。制度が整う前から、「どんな遺言を残したいか」「財産をどう整理するか」を考え始めることが、将来の備えにつながります。
法改正の動きは今後も続きます。「変わるかもしれない」という情報に振り回されるのではなく、現行ルールをしっかり理解したうえで、今できる準備を着実に進めることが大切です。
よりねこでは、相続や終活に関するご相談を承っております。「遺言書をどう準備すればよいかわからない」「相続手続きの流れを一緒に確認したい」という方は、どうぞお気軽にお問い合わせください。また、認知症や判断能力の低下に備えた準備として任意後見のデメリットを正直に解説|後悔しないための対策と注意点もあわせてご参照いただくと、老後の備えをより総合的に考えるヒントになります。