事実婚・内縁のパートナーに財産を遺すには?相続権がない場合の備え方

「婚姻届を出していないけれど、ずっと一緒に暮らしてきたパートナーに、自分の財産を遺してあげたい」——そう思っている方は、決して少なくありません。
しかし現在の法律では、事実婚・内縁関係のパートナーには相続権がなく、何も準備しないまま相手が亡くなった場合、財産は一切受け取れない可能性があります。
この記事では、内縁・事実婚のパートナーに財産を遺すための具体的な方法を、リスクや税金の注意点もあわせてわかりやすくお伝えします。大切な人を守るために、今できることを一緒に確認していきましょう。

目次

事実婚・内縁の関係では、パートナーに相続権は認められない

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まず押さえておきたいのは、日本の相続制度における「内縁パートナーの位置づけ」です。長年連れ添ったパートナーであっても、法律婚(婚姻届を提出した夫婦)とは扱いが大きく異なります。
事実婚・内縁関係のカップルは、社会的には夫婦としての実態を持っていても、民法が定める「配偶者」には含まれません。そのため、相続権が自動的に発生することはなく、特別な手立てを講じなければ、パートナーに財産を遺すことができないのです。
この事実を知らないまま年月を重ねてしまうと、将来的に大きな後悔につながります。まずは法的な現実をきちんと理解することが、備えの第一歩となります。

法定相続人の範囲と、内縁パートナーが含まれない理由

日本の民法では、亡くなった人の財産を受け継ぐ権利を持つ人を「法定相続人(ほうていそうぞくにん)」と呼びます。法定相続人になれるのは、法律婚の配偶者と、血縁関係のある一定範囲の親族に限られています。
具体的には、配偶者は常に相続人となり、子どもが第1順位、両親や祖父母などの直系尊属(ちょっけいそんぞく)が第2順位、兄弟姉妹が第3順位です。上位の順位に相続人がいる場合、下位の順位の人は相続できません。
ここで問題になるのが、内縁・事実婚のパートナーはこの法定相続人のどこにも入らないという点です。婚姻届を出していない以上、法律上の「配偶者」ではないとみなされます。どんなに長く一緒に暮らしていても、介護をしていても、共に財産を築いてきたとしても、法律はそれを考慮してくれません。
「まさか財産が受け取れないとは思わなかった」という声は、実際の相談現場でもよく聞かれます。内縁関係にある方は、この法的な仕組みを早めに把握しておくことが大切です。

何十年連れ添っても、婚姻届がなければ法律上は他人

「30年間ずっと一緒に暮らしてきたのに」「実質的には夫婦なのに」——そう感じている方も多いでしょう。しかし残念ながら、日本の相続法において内縁関係は「法律上の他人」と同様に扱われます。
たとえ結婚式を挙げていたとしても、共通の家計で生活していたとしても、子どもがいたとしても、婚姻届が提出されていなければ相続権は発生しません。最高裁判所の判例でも、内縁の配偶者への財産分与請求は認められないと判断されています。
これは「事実婚を選んだ方が不利になる制度」ともいえます。子どもの独立後に再び生活をともにするようになったシニアカップルや、さまざまな事情で婚姻届を出していないカップルにとって、この法律のハードルは特に切実な問題です。
だからこそ、生前のうちに「法的な手当て」をしておくことが欠かせません。現行制度のルールを受け入れたうえで、その範囲内でできる最善の備えを整えることが重要です。

内縁関係の子どもの相続権は「認知」の有無で変わる

事実婚・内縁関係のカップルの間に子どもがいる場合、その子どもの相続権は「認知(にんち)」があるかどうかによって大きく変わります。
母親との関係では、出産という事実から法律上の親子関係が自動的に認められ、子どもは母の相続人になれます。一方、父親との関係では、婚姻関係がない場合、父親が子どもを認知しなければ法律上の親子関係は生まれません。認知がなければ、父が亡くなっても子どもは相続できないのです。
認知は生前に届け出る方法と、遺言書の中で行う「遺言認知」の2種類があります。いずれにせよ、父親側が自ら行動しなければ成立しないため、放置しておくと子どもの権利が守られないまま相続が発生してしまう可能性があります。
内縁関係でお子さんがいる方は、認知の有無を今一度確認しておくことをおすすめします。子どもへの想いを法的にきちんと形にしておくことが、将来の安心につながります。

事実婚のまま何も備えないでいると、こんなリスクがある

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相続権がないことを知らないまま、あるいは「なんとかなるだろう」と思いながら生前の対策を後回しにしていると、相手が亡くなったときに深刻な事態に直面することがあります。内縁・事実婚のパートナーが具体的にどのようなリスクを抱えているのか、ここで整理しておきましょう。
これらのリスクは、いずれも「今から準備することで回避できる」ものです。怖い話として受け取るのではなく、「では何をすればよいか」を考えるためのヒントとして読んでいただければと思います。

内縁パートナーの財産は、子・兄弟姉妹などにすべて渡ってしまう

内縁の夫または妻が亡くなったとき、遺言書がなければ財産は法定相続人に渡ります。もし内縁パートナーに子どもがいれば、その子どもが全財産を相続します。子どもがいない場合は、両親や兄弟姉妹が相続人となります。
たとえば、内縁の夫に前の婚姻で生まれた子どもがいたとします。夫が亡くなると、その子どもが相続人となり、二人で長年築いてきた預貯金や不動産もすべてその子どもに渡ることになります。内縁の妻は、長年の生活の痕跡があっても、法律上は「相続できない第三者」なのです。
また、内縁パートナーに子どもも親もいない場合でも、兄弟姉妹が相続人になります。疎遠だった親族が突然現れて財産を相続するという状況も、珍しいことではありません。なお、子どものいない夫婦(事実婚も含む)の相続については、子どものいない夫婦の相続、配偶者に全部渡らないってほんと?もあわせてご参照ください。

内縁の夫・妻名義の家に住み続けられなくなる可能性

二人で暮らしてきた自宅が、内縁の夫または妻の名義だった場合、相続が発生すると住居の権利が法定相続人に移ります。法定相続人から「家を出てほしい」と求められた場合、内縁パートナーはそれを断る法的な根拠を持ちません。
法律婚の配偶者には「配偶者居住権(はいぐうしゃきょじゅうけん)」という制度があり、相続発生後も自宅に住み続ける権利が保護されています。しかし内縁関係にはこの制度が適用されないため、長年住み慣れた家を失うリスクが現実として存在します。
高齢になってから住む場所を失うことの影響は計り知れません。新たな賃貸物件を探そうとしても、年齢や収入の問題で断られるケースもあります。こうした事態を防ぐためにも、「パートナーに自宅を遺贈する」という内容の遺言書を作成しておくことが、具体的な対策のひとつになります。

法定相続人から遺留分侵害額請求を受けるリスク

仮に内縁パートナーへの遺言書を用意していたとしても、法定相続人が「遺留分侵害額請求(いりゅうぶんしんがいがくせいきゅう)」を行使することで、受け取れる財産が減ってしまう可能性があります。
遺留分とは、一定の法定相続人に最低限保障された相続の取り分のことです。たとえば、子どもがいる場合の遺留分は遺産全体の2分の1です。内縁パートナーにすべての財産を遺贈する遺言書があっても、子どもがこの遺留分を請求すれば、パートナーは一部の財産を法定相続人に渡さなければなりません。
遺留分侵害額請求は、法定相続人に認められた正当な権利です。これを完全に回避することは難しいですが、遺言書の作成段階で遺留分に配慮した財産の分け方を設計しておくことで、トラブルを最小限に抑えることができます。事前に専門家に相談しながら遺言書を作成することをおすすめします。

方法①|遺言書を書いて、内縁パートナーに財産を遺贈する

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内縁・事実婚のパートナーに財産を遺す方法の中で、最も確実性が高く、幅広いケースに対応できるのが「遺言書による遺贈(いぞう)」です。遺言書があれば、法定相続人でない相手にも財産を渡すことができます。
遺贈とは、遺言によって財産を無償で譲ることをいいます。相続人以外の人が対象であっても有効で、現金・不動産・有価証券など、あらゆる種類の財産を対象にすることができます。内縁パートナーへの財産移転を確実に実現するために、まず真っ先に検討してほしい手段です。

事実婚・内縁関係では公正証書遺言が特に重要な理由

遺言書には「自筆証書遺言」と「公正証書遺言(こうせいしょうしょゆいごん)」の2種類があります。自筆証書遺言は自分一人で作成でき手軽ですが、内縁・事実婚の場合には特に公正証書遺言をおすすめします。
理由のひとつは、法的な確実性です。公正証書遺言は公証人という法律の専門家が作成に立ち会い、内容や形式の有効性を確認したうえで公正役場に保管されます。自筆証書遺言のように「書き方が間違っていたために無効になった」というトラブルを防ぐことができます。
もうひとつの理由は、内縁パートナーへの遺言は法定相続人から争われやすいという現実があるからです。遺言の内容を争う「遺言無効確認訴訟」が起こされた場合でも、公正証書遺言は証拠としての信頼性が高く、無効とされるリスクが大幅に低くなります。
作成費用は財産の額や内容によって異なりますが、公証人手数料が数万円〜数十万円程度かかります。費用はかかりますが、長年のパートナーを守るための投資と考えると、決して高くはないでしょう。

遺言書に「内縁の妻(夫)」と明記するための書き方と注意点

遺言書の中で内縁パートナーを財産の受取人として指定する際には、「誰のことを指すのか」が明確になるように記載することが大切です。氏名・生年月日・住所など、特定できる情報をできるだけ具体的に記載しましょう。
たとえば、「内縁の妻 山田花子(昭和××年×月×日生まれ、○○県○○市○○町×番地在住)に、下記の財産を遺贈する」という形で記します。「内縁の妻」「事実婚のパートナー」という表現を使うことで、法律上の配偶者ではないことを明示しながら、遺言の意思を明確に伝えることができます。
また、不動産を遺贈する場合は、登記簿に記載されている情報(所在・地番・地目・面積など)を正確に記載する必要があります。不正確な記載は遺言の一部が無効になるリスクがあるため、専門家(弁護士・司法書士・行政書士)に確認してもらいながら作成することをおすすめします。
遺言書の内容は、作成後も何度でも書き直すことができます。財産が増えたり、状況が変わったりしたときは、定期的に見直す習慣をつけておくとよいでしょう。

法定相続人がいる場合の遺留分への配慮

内縁パートナーに財産を遺贈する場合、法定相続人がいるときは「遺留分(いりゅうぶん)」への配慮が必要です。先ほどお伝えした通り、遺留分は法定相続人に保障された最低限の取り分であり、遺言書の内容よりも優先されます。
遺留分が認められる法定相続人は、配偶者・子ども・直系尊属(両親・祖父母など)で、兄弟姉妹には遺留分がありません。たとえば子どもが1人いる場合、その子どもには遺産全体の4分の1の遺留分があります。
遺留分の侵害を完全に防ぐことはできませんが、遺言書の作成段階で「法定相続人の遺留分を確保したうえで、残りをパートナーに遺贈する」という設計にしておくと、相続発生後のトラブルを最小限に抑えられます。また、法定相続人との関係が良好であれば、遺言書を作成する前に事情を説明しておくことも、のちのちの争いを避けるうえで有効です。

方法②|生前に少しずつ、内縁のパートナーに贈与しておく

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遺言書による遺贈とあわせて活用したいのが「生前贈与(せいぜんぞうよ)」です。生前贈与とは、存命のうちに財産を相手に渡す方法で、内縁・事実婚のパートナーに対しても自由に行うことができます。
遺贈と異なる点は、渡す側が生きているうちに実行できるということです。相続発生を待たずにパートナーの生活を支えることができ、財産を少しずつ移転していくことで相続時の財産額を抑える効果もあります。ただし、税金の扱いや近年の制度変更には注意が必要です。

年間110万円の基礎控除を使った暦年贈与の活用

贈与税には、年間110万円までの「基礎控除(きそこうじょ)」が設けられています。1月1日から12月31日の1年間に受け取った贈与の合計額が110万円以内であれば、贈与税はかかりません。これを活用して、毎年コツコツとパートナーに財産を渡していく方法が「暦年贈与(れきねんぞうよ)」です。
たとえば、毎年100万円ずつ10年間贈与すれば、1,000万円の財産をパートナーに移転することができます。この場合、贈与税はゼロです。贈与を受けた財産はパートナー自身のものになるため、万一相続が発生しても法定相続人に持っていかれることはありません。
ただし、毎年同じ金額を機械的に贈与し続けると、「定期贈与(ていきぞうよ)」とみなされ、総額に対して贈与税が課される可能性があります。金額や時期を毎年少し変えること、そして贈与のたびに「贈与契約書」を作成して記録を残しておくことが大切です。

事実婚カップルが不動産を生前贈与する場合の手続きと注意点

自宅などの不動産を生前贈与する場合は、現金の贈与よりも手続きが複雑になります。贈与を受けた側は、法務局で「所有権移転登記(しょゆうけんいてんとうき)」を行い、名義を自分に変える必要があります。
また、不動産の贈与には贈与税だけでなく、不動産取得税や登録免許税もかかります。高額の不動産を一度に贈与すると税負担が大きくなるため、専門家に相談しながら計画的に進めることをおすすめします。
なお、法律婚の配偶者には「夫婦間の不動産贈与の特例(婚姻期間20年以上の配偶者への居住用不動産の贈与)」があり、2,000万円までが非課税になります。しかし内縁・事実婚のパートナーにはこの特例が適用されないため、通常の贈与税の計算が必要になります。税額のシミュレーションは事前にしっかり確認しておきましょう。

2024年からの生前贈与加算ルール変更で気をつけること

2024年(令和6年)1月以降の贈与から、相続税と贈与税の計算ルールが変更されました。従来は「相続発生前3年以内の生前贈与は相続財産に加算される」というルールでしたが、改正後はこの期間が段階的に延長され、最終的には「相続発生前7年以内の生前贈与」が加算対象となります(2031年以降に相続が発生する場合に完全適用)。
内縁パートナーへの生前贈与は、この「生前贈与加算」の対象外です。加算が適用されるのは相続人への贈与に限られるため、内縁パートナーへの贈与は影響を受けません。ただし、万一パートナーが遺言書によって遺贈を受けた場合は相続税の対象となるため、その計算においては慎重な設計が求められます。
制度は年々変化しています。生前贈与と遺言を組み合わせた対策を検討する際は、税理士などの専門家に最新の情報を確認しながら進めることを強くおすすめします。

方法③|生命保険の受取人に、内縁・事実婚のパートナーを指定する

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遺言書や生前贈与に加えて、「生命保険の活用」も内縁パートナーに財産を遺す有効な手段のひとつです。生命保険は相続の手続きとは別の仕組みで動くため、遺産分割の影響を受けにくいという特徴があります。
ただし、内縁・事実婚のパートナーを受取人として指定できるかどうかは保険会社によって異なるため、事前の確認が不可欠です。また、法律婚の配偶者と比べて税制上の優遇が少ない点も知っておく必要があります。

生命保険金は遺産分割の対象にならない

生命保険金の最大の特徴は、「受取人固有の財産」として扱われる点です。亡くなった方の遺産ではなく、受取人が直接受け取る財産とみなされるため、原則として遺産分割協議の対象になりません。
これは内縁パートナーにとって大きなメリットです。遺言書による遺贈であれば、法定相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性がありますが、生命保険金についてはそのような心配がありません(ただし、保険金の額が遺産に比べて著しく多い場合は、例外的に問題になることもあります)。
また、生命保険金は請求手続きが比較的シンプルで、相続手続きが複雑化している状況でもスムーズに受け取れることが多いです。相続発生後すぐに生活費が必要になるケースでは、心強いセーフティネットになります。

内縁関係でも受取人指定できる?保険会社への確認ポイント

生命保険の受取人は、原則として「被保険者(ひほけんしゃ)の配偶者または血縁関係のある親族」に限定されている場合が多いです。法律婚の配偶者であれば問題なく指定できますが、内縁・事実婚のパートナーを受取人にできるかどうかは、保険会社ごとにルールが異なります。
内縁関係での受取人指定を認めている保険会社もありますが、その場合は「内縁関係を証明する書類(住民票の続柄欄に「妻(未届)」等の記載があるもの)」の提出を求められることがあります。また、長期にわたる同居の事実や家計の一体性を確認される場合もあります。
まず、現在加入している保険会社に「内縁のパートナーを受取人にできるか」を直接確認することをおすすめします。新規に保険に入る場合は、内縁関係への対応を明確にしている商品を選ぶとよいでしょう。
なお、住民票に内縁関係を記載してもらうには、お住まいの市区町村の窓口で手続きを行います。これは内縁関係を公的に証明するうえでも役立つ書類ですので、まだ対応していない方はあわせて検討してみてください。

非課税枠が使えないことによる税負担への対策

法律婚の配偶者や子どもなど、法定相続人が生命保険金を受け取る場合は「500万円×法定相続人の数」という非課税枠が適用されます。しかし内縁・事実婚のパートナーは法定相続人ではないため、この非課税枠が使えません。受け取った保険金の全額が相続税の課税対象となります。
また、内縁パートナーは相続税の「2割加算(にわりかさん)」の対象にもなります(詳しくは後述します)。つまり、保険金を受け取る際の税負担は、法律婚の配偶者に比べてかなり重くなることを想定しておく必要があります。
こうした税負担を踏まえたうえで、生命保険の金額をどの程度に設定するかを検討することが大切です。税金を差し引いても、パートナーの生活に必要な金額が確保できるよう、逆算して保険金額を設計することをおすすめします。

方法④|特別縁故者として財産の分与を求める(内縁関係に認められる例外)

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生前に何も対策を講じていなかった場合でも、条件によっては内縁パートナーが財産を受け取れる可能性があります。それが「特別縁故者(とくべつえんこしゃ)に対する財産分与」という制度です。
ただしこれは、あくまでも例外的な手段です。適用できる状況が限られており、手続きに時間もかかります。この方法だけを当てにして生前の対策を怠ることは、大きなリスクを伴います。

内縁の配偶者が特別縁故者と認められるための条件

特別縁故者の制度が適用されるのは、「亡くなった方に法定相続人が誰もいない」または「相続人全員が相続放棄をした」場合に限られます。法定相続人がひとりでもいれば、特別縁故者への財産分与は行われません。
法定相続人がいない場合、内縁パートナーは家庭裁判所に「特別縁故者に対する財産分与の申立て」を行うことができます。申立てが認められるには、亡くなった方と「生計を同一にしていた」「療養看護に努めていた」「その他特別な縁故関係にあった」という事実を証明する必要があります。
具体的には、同居を示す住民票や写真、生活費の支払い履歴、医療・介護の記録、日常的なやり取りを示す手紙やメールなどが証拠として使われます。長年の生活の記録を日頃から残しておくことが、万一のときに役立ちます。
ただし、申立てが認められても、受け取れる財産は家庭裁判所が決定した範囲に限られます。遺産のすべてを受け取れる保証はありません。

申立ての流れと、手続きにかかる時間

特別縁故者への財産分与申立ては、まず相続財産清算人(そうぞくざいさんせいさんにん)の選任から始まります。相続財産清算人は家庭裁判所が選任し、債権者の調査や財産の管理・処分を行います。
その後、家庭裁判所が「相続人不存在」の公告を行い、3か月間の債権申出期間を設けます。この期間が終わってから、特別縁故者への申立てができる2か月の期間が設けられます。そこから家庭裁判所が審判を行い、財産分与が認められるかどうかが決まります。
この一連の手続きには、最短でも1年以上かかるとされています。その間、財産は凍結状態となり、内縁パートナーが自由に使うことはできません。精神的にも時間的にも、非常に重い負担がかかる手続きです。
こうした実情を考えると、生前のうちに遺言書を作成しておくことが、いかに重要かがおわかりいただけると思います。

事実婚のパートナーがこの方法だけに頼るのが危険な理由

特別縁故者の制度は、あくまで「相続人がいない場合の最後の手段」です。内縁パートナーに子どもや兄弟姉妹などの法定相続人がいれば、そもそも申立てすらできません。
また、仮に法定相続人がいなかったとしても、申立てが必ずしも認められるわけではありません。「特別な縁故関係」の証明が不十分だと判断されれば、財産は国庫(こっこ)に帰属してしまいます。つまり、パートナーが亡くなっても、財産は国に渡るという結果になりかねないのです。
「何もしなくても、なんとかなる」という考えは危険です。特別縁故者の制度があることは知識として持ちながらも、実際にはそれに頼らない備えを整えておくことが、パートナーを守るうえでの基本的な姿勢です。

事実婚・内縁関係の遺贈・生前贈与にかかる税金で知っておきたいこと

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内縁パートナーに財産を遺す方法を検討するうえで、避けて通れないのが税金の問題です。法律婚の配偶者と比べて、事実婚・内縁関係には税制上の優遇が少なく、場合によっては予想以上の税負担が生じることがあります。事前に把握しておくことで、後悔のない対策ができます。なお、相続税については意外な盲点もありますので、相続税がかからないと思っていたら、申告だけは必要だったケースもあわせてご覧ください。

内縁パートナーへの遺贈には相続税が2割加算される

遺言書によって内縁パートナーに財産を遺贈した場合、相続税の計算において「2割加算(にわりかさん)」が適用されます。これは、法定相続人以外の方が遺産を受け取る場合、通常の相続税額にさらに20%が上乗せされるというルールです。
たとえば、通常であれば相続税が100万円になるケースでも、内縁パートナーが受け取る場合は120万円を納める必要があります。財産の額が大きくなるほど、この差は無視できない金額になります。
2割加算は、法律婚の配偶者・子ども・両親(直系尊属)には適用されませんが、兄弟姉妹や孫(代襲相続の場合を除く)にも適用されます。内縁パートナーの場合は必ず対象になると理解しておきましょう。財産をどの程度遺贈するかを決める際には、この税負担も計算に含めて設計することが大切です。

法律婚の配偶者控除(最大1億6,000万円)が使えない影響

法律婚の配偶者が相続する場合、「配偶者の税額軽減(はいぐうしゃのぜいがくけいげん)」という制度が適用されます。これにより、配偶者が受け取る財産が1億6,000万円以下であれば(あるいは法定相続分の範囲内であれば)、相続税が一切かからないという強力な優遇です。
内縁・事実婚のパートナーにはこの制度が適用されません。法律上の配偶者ではないため、いかなる金額を受け取っても、相続税の課税対象となります。これが、法律婚と事実婚の税制上の大きな格差のひとつです。
この差は、財産の規模が大きくなるほど顕著になります。

数千万円単位の不動産や預貯金を遺贈する場合、事前に税理士に相談して税額を試算しておくことを強くおすすめします。税負担が想定外に重くなって、パートナーが受け取った財産から大きく差し引かれてしまうという事態を防ぐためにも、早めの確認が肝心です。

税負担を少しでも軽くするための工夫

内縁パートナーへの財産移転における税負担を軽減するための工夫として、いくつかの方法があります。
まず、生前贈与の活用です。毎年110万円以内の暦年贈与を長期間にわたって続けることで、相続財産そのものを減らすことができます。相続時の財産が少なくなれば、それに伴って相続税も軽減されます。

次に、生命保険の活用です。前述のとおり内縁パートナーには非課税枠がありませんが、法定相続人(子どもや兄弟姉妹)を受取人に指定した生命保険を活用することで、間接的にパートナーの生活を支える資金を確保するという方法もあります。

また、財産の一部を信頼できる第三者に管理してもらう「家族信託(かぞくしんたく)」の仕組みを活用することで、税負担を抑えながら財産を守る設計も可能です。どの方法が最適かは個々の状況によって異なるため、税理士や弁護士などの専門家に早めに相談することをおすすめします。

内縁・事実婚のパートナーが認知症になった場合にも、あわせて備えておく

ここまで、内縁パートナーに財産を遺すための生前対策をお伝えしてきました。しかし、相続の問題と同じくらい、あるいはそれ以上に大切な視点があります。それは「パートナーが認知症になったときの備え」です。
事実婚・内縁関係のカップルにとって、認知症は相続よりも早く訪れる可能性があります。そして、認知症になってからでは、多くの対策が手遅れになってしまうのです。

認知症になってからでは、遺言書も生前贈与も原則できない

遺言書の作成や生前贈与など、これまで紹介してきた対策はすべて、「意思能力がある状態」が前提となります。認知症が進行して判断能力が失われると、これらの法律行為は原則として無効とみなされます。
たとえば、認知症が進んだ状態で署名した遺言書は、「意思能力がなかった」として後から無効を主張される可能性があります。また、認知症の状態での生前贈与も、後に取り消される恐れがあります。
「まだ大丈夫」と思っているうちに対策を先延ばしにして、気づいたときには間に合わなかった——そういった事態は、実際に少なくありません。遺言書の作成も生前贈与の計画も、「元気なうちに」というタイミングが不可欠です。

任意後見契約で、元気なうちにパートナーの財産管理を守る

認知症に備えるうえで、内縁・事実婚のカップルにとって特に重要なのが「任意後見制度(にんいこうけんせいど)」です。任意後見契約とは、将来自分の判断能力が低下したときに、財産の管理や契約行為を代わりに行ってもらう人(任意後見人)を、元気なうちに自分で選んでおく制度です。
内縁パートナーが互いに任意後見人として指定し合うことで、一方が認知症になっても、もう一方が財産を適切に管理できるようになります。法律婚でなくても利用できるため、事実婚・内縁関係のカップルにとって非常に相性のよい制度です。認知症になったら任意後見はどう動く?申立てから開始までの道筋では、具体的な手続きの流れを詳しく解説しています。
任意後見契約は、公正証書によって作成する必要があります。遺言書を公正証書で作成するタイミングにあわせて、同時に手続きを進めることもできます。費用や手続きの詳細については、【初心者向け】任意後見でできることを解説|財産・介護・住まいの場面別ガイドもご参照ください。

身元保証サービスとの組み合わせで、老後の安心をより確かに

任意後見とあわせて、「身元保証サービス」の活用も検討してみてください。身元保証サービスとは、入院や介護施設への入居の際に必要となる「保証人」の役割を、専門の事業者が代わりに担ってくれるサービスです。
内縁・事実婚のカップルは、法律婚の夫婦に比べて「家族」としての対外的な信頼性が証明しにくい場面があります。たとえば医療機関や介護施設では、保証人として認められないケースもあります。身元保証サービスを利用することで、こうした場面での不安を解消することができます。
任意後見と身元保証サービスの役割の違いや、どちらを優先すべきかについては、身元保証サービスと任意後見の違いと使い分け|一生涯の安心を二段構えで備える方法で詳しく解説しています。財産を遺すための備えと、生前の生活を守るための備えを両輪で整えることが、内縁・事実婚カップルの老後の安心につながります。

まとめ|事実婚・内縁のパートナーを守るために、今できることから始めよう

事実婚・内縁関係のパートナーには、法律上の相続権がありません。しかし、生前のうちに適切な手立てを講じることで、大切なパートナーに財産を遺し、老後の生活を守ることは十分に可能です。
本記事でご紹介した主な方法をまとめると、①公正証書遺言による遺贈、②暦年贈与を活用した生前贈与、③生命保険の受取人指定、④任意後見契約の締結、⑤身元保証サービスの活用——これらを組み合わせることで、より確実な備えを整えることができます。
最も大切なのは、「元気なうちに動く」ことです。遺言書も任意後見も、判断能力が失われてからでは手遅れになります。「まだ先のこと」と思わずに、今の自分にできることを少しずつ始めていただければと思います。
よりねこでは、おひとり様の終活に関するご相談を承っております。事実婚・内縁関係における相続対策、任意後見、身元保証など、どこから手をつければよいかわからない方も、まずはお気軽にお問い合わせください。

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