任意後見は途中でやめられる?解除の方法と効力発生前後の違い

「もう何度も話し合って決めたから安心」――そう思っていた任意後見契約に、ふと小さな引っかかりを感じる瞬間があります。
本人の状況が変わったとき、あるいは受任者との関係性に変化が生じたとき、「この契約はやめられるのだろうか」という疑問が静かに頭をよぎることがあります。
この記事では、任意後見契約を解除する方法を、効力発生前と発生後に分けて、できるだけわかりやすく整理してお伝えします。

「これで安心」と思った任意後見契約に、ふと不安が生まれるとき

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任意後見契約は、将来の判断能力の低下に備えて、財産管理や生活上の事務を信頼できる人に託しておく仕組みです。
契約を結んだ時点では「これで安心」と感じていても、時間が経つにつれて家族構成や本人の希望、受任者との関係性は少しずつ変化していきます。
そうした変化のなかで、「最初に決めた内容のままで本当によいのか」「状況が変わった場合に見直すことはできるのか」という疑問が生まれるのは、ごく自然なことです。とくに高齢のご本人やそのご家族にとっては、契約内容を変更すること自体が大きな手続きに思えてしまい、不安だけが先に立ってしまうケースも少なくありません。

状況が変わったときに「変更できるのか」が見えにくい契約の仕組み

任意後見契約は、公正証書という厳格な方式で結ばれる契約です。そのため、一度結んだ契約は簡単には変えられないという印象を持つ方が多くいらっしゃいます。
たとえば、契約当初は子どもの一人を受任者に指定していたものの、その後の事情で関係性が変化したり、受任者自身の健康状態が変わったりすることがあります。また、本人の希望する暮らし方が変わり、財産管理の方針を見直したくなる場合もあるでしょう。
こうした変化に対応するための仕組みは法律上きちんと整備されているのですが、契約書や手続きの説明だけを見ると、どこに「変更」や「解除」に関する記載があるのかが分かりにくく、結果として「変えられないもの」と思い込んでしまう方が多いのが実情です。
任意後見でできることの基本をあらためて確認したい場合は、【初心者向け】任意後見でできることを解説|財産・介護・住まいの場面別ガイドも参考になります。

不安を抱えたまま放置することで生じやすい思い込み

「契約したからにはやめられない」という思い込みを抱えたまま放置してしまうと、本人や家族が必要以上に我慢を重ねてしまうことがあります。
たとえば、受任者である家族の体調や生活環境が変わり、本来の事務を十分に担えない状況になっても、「今さら変更を申し出るのは申し訳ない」と感じて、そのままにしてしまうケースが見られます。また、本人の意向と現在の契約内容にずれが生じていても、「契約は契約だから」と諦めてしまう方もいらっしゃいます。
しかし、任意後見契約は状況の変化に応じて見直すための手続きが法律上きちんと用意されている制度です。思い込みのまま放置するのではなく、まずは「どのような場合に、どのような方法で解除できるのか」を正しく知ることが、本人にとっても家族にとっても安心につながる第一歩になります。

任意後見契約は法律上「解除できる」と定められている

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任意後見契約は、当事者間の合意だけで成立するものではなく、「任意後見契約に関する法律」という専門の法律に基づいて運用されています。
この法律のなかには、契約を解除するための条件や手続きについても明確に定められており、決して「一度結んだら最後まで変更できない契約」ではありません。
ただし、解除の方法は契約の状態によって大きく異なります。任意後見契約が実際に効力を持ち始める前と後とで、必要な手続きがまったく違ってくるため、まずはこの法律上の枠組みを理解しておくことが大切です。

任意後見契約に関する法律が定める解除のルール

任意後見契約の解除について定めているのは、任意後見契約に関する法律第9条です。
この条文では、任意後見監督人(にんいこうけんかんとくにん)が選任される前と後とで、解除の方法が分けて規定されています。任意後見監督人とは、任意後見人がきちんと事務を行っているかを家庭裁判所に代わって見守る立場の人のことで、家庭裁判所が選任した時点から任意後見契約が実際に効力を持ち始めます。
同条第1項では、監督人が選任される前であれば、本人または任意後見受任者(じゅにんしゃ。任意後見人になる予定の人)は、いつでも理由を問わず契約を解除できると定められています。一方、第2項では、監督人が選任された後は、正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て解除できるとされています。
このように、法律のなかにあらかじめ解除の手続きが組み込まれていることで、本人の意思が不当に縛られることなく、かつ判断能力が低下した後の本人を不安定な状態にさせないバランスが取られています。

解除の方法は「効力発生前」か「発生後」かで大きく変わる

任意後見契約を解除する際にもっとも重要なポイントは、「任意後見監督人が選任されているかどうか」という一点です。これによって、必要な手続きの重さがまったく異なります。
監督人が選任される前は、本人の判断能力はまだ低下していない、あるいは契約はまだ実際には動き出していない状態です。そのため、当事者の意思を確認するための公証人の認証という手続きだけで、比較的シンプルに解除することができます。
これに対して監督人が選任された後は、本人の判断能力が低下しており保護が必要な状態にあるため、家庭裁判所が「本当に解除してよいのか」を確認するプロセスが加わります。たとえば、本人の判断能力が低下したあとに受任者との関係が悪化したような場合、本人を保護する立場の家庭裁判所が間に入ることで、不当な解除や本人の意思に反する解除を防ぐ仕組みになっているのです。
認知症などにより判断能力が低下し、実際に任意後見が始まるまでの流れについては、認知症になったら任意後見はどう動く?申立てから開始までの道筋でも詳しく解説しています。

効力発生前(任意後見監督人の選任前)に解除する方法

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任意後見監督人が選任される前であれば、本人と任意後見受任者は、いつでも、理由を問わず契約を解除することができます。
この時期は本人の判断能力がまだ低下していない、あるいは契約自体がまだ実際には動き出していない段階にあるため、法律上もシンプルな手続きで解除が認められています。
ただし「いつでも自由に」とはいっても、口頭でのやり取りだけでは法的な効力は発生しません。後々のトラブルを避けるためにも、決められた書面の手続きを踏むことが必要になります。

公証人の認証を受けた書面があれば比較的自由に解除できる

効力発生前の解除で必要になるのが、公証人の認証を受けた書面です。これは、解除の意思が本人の真意に基づくものであることを公証人に確認してもらう手続きで、口頭でのやり取りだけでは認められません。
たとえば、「やはり契約をやめたい」と本人と受任者が話し合っただけで終わらせてしまうと、後日「言った」「言わない」というトラブルにつながりかねません。そこで、解除の意思を記載した書面を作成し、公証役場へ持参して公証人の認証を受けるという手続きを踏むことになります。
公証人の関与が必要とされているのは、当事者の解除の真意を確認するためであると同時に、もともと任意後見契約自体が公正証書という厳格な方式で結ばれていることとのバランスを取るためでもあります。なお、公証人の面前で当事者双方が揃って手続きを行う必要は法律上ありませんが、本人の状況によっては公証人の前で直接手続きを行うことで、よりトラブルを避けやすくなります。
そもそも任意後見契約の公正証書をいつ作成するかという点については、任意後見の公正証書はいつ作る?作成タイミングと準備の進め方を解説もあわせて確認しておくと、契約全体の流れがつかみやすくなります。

合意解除と一方的解除、それぞれの進め方の違い

効力発生前の解除には、本人と受任者の双方が合意して進める「合意解除」と、一方の意思だけで進める「一方的解除」の二つの方法があります。
合意解除は、双方が「やめましょう」と納得した上で進める、もっとも円満な方法です。この場合は「任意後見契約合意解除書」のような書面を作成し、双方の署名のもとで公証人の認証を受ければ、その時点で解除の効力が生じます。
一方で、たとえば受任者の生活環境が大きく変わって事務を担うのが難しくなった場合や、本人が受任者との関係に不信感を抱くようになった場合など、双方の合意が整わないケースもあります。このような場合は、解除の意思表示を記載した書面に公証人の認証を受けたうえで、内容証明郵便によって相手方に通知する一方的解除という方法を取ることができます。一方的解除の場合、解除の効力が発生するのは、通知が相手方に届いた日付とされている点に注意が必要です。
どちらの方法であっても、最終的には公証人の認証という同じ手続きを踏む点は共通しています。

効力発生後(任意後見監督人の選任後)に解除する方法

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任意後見監督人が選任された後は、本人の判断能力がすでに低下しており、保護が必要な状態にあると考えられます。
そのため、効力発生前のように当事者の意思だけで簡単に解除することはできず、正当な事由があることに加えて、家庭裁判所の許可を得るという手続きが必要になります。
この仕組みは、本人を保護するための制度であると同時に、判断能力が低下した本人の意思が不当な圧力によって左右されないようにするための安全装置でもあります。

家庭裁判所の許可が必要になる理由

効力発生後に家庭裁判所の許可が必要とされているのは、本人がすでに自分の意思を十分に表明することが難しい状況にあるためです。
たとえば、判断能力が低下した本人に対して、受任者が一方的に契約をやめようとした場合、本人がその内容を正しく理解し、納得しているかどうかを本人自身で確認することは難しくなっています。こうした状況で当事者の意思表示だけで解除を認めてしまうと、本人の保護が不十分になったり、解除そのものが本人にとって不利益な結果を招いたりする可能性があります。
そこで、家庭裁判所が中立的な立場から、解除を申し出る理由や本人の状況を確認し、解除を認めてもよいかどうかを審理する仕組みが設けられています。具体的な手続きとしては、まず解除の意思表示を記載した書面を準備し、家庭裁判所に許可を求める申立てを行います。裁判所が必要と判断した場合には、当事者や任意後見監督人から事情を聞くこともあります。
許可の審判が出た後は、審判書が届いてから2週間以内に不服申立てがなければ審判が確定し、確定証明書を取得したうえで、改めて解除の意思表示を記載した書面について公証人の認証を受ける必要があります。効力発生前と比べると、手続きの段階がひとつ多くなる点を理解しておくと安心です。

「正当な事由」として認められやすいケース

家庭裁判所が解除を許可するためには「正当な事由」が必要とされていますが、その具体的な内容は法律に明記されているわけではありません。そのため、これまでの実務上の考え方を参考にすることが助けになります。
たとえば、任意後見人による財産の使い込みや不適切な管理が疑われる場合、本人への不適切な対応や暴言があった場合、任意後見人自身の病気や経済的な事情によって後見事務を続けることが難しくなった場合、本人と任意後見人の間の信頼関係が大きく崩れてしまい、円滑な財産管理や生活支援が難しくなった場合などが、正当な事由として認められやすいケースとして挙げられています。
一方で、単に「気が変わった」「他の人に頼みたくなった」といった事情だけでは、正当な事由として認められにくい可能性があります。家庭裁判所は、本人の保護という観点から審理を行うため、解除によって本人の生活や財産にどのような影響が生じるのかを丁寧に確認する点を理解しておくとよいでしょう。

解除したあとに必要な「終了登記」の手続き

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任意後見契約を解除しただけでは、手続きはまだ完了していません。契約の解除によって任意後見契約が終了したことを、法務局に登記する「終了登記」の手続きが別途必要になります。
この登記を行わないと、任意後見人の代理権がすでに消滅していることを、事情を知らない第三者に対して主張できなくなってしまいます。たとえば、解除後にもかかわらず元の任意後見人が銀行などで代理権を主張してしまうような事態を防ぐためにも、終了登記は速やかに行うことが大切です。

終了登記の申請先と必要書類

任意後見の終了登記は、全国どこに住んでいても、申請先は東京法務局後見登録課のみとなっています。他の法務局や支局、出張所では受け付けていない点に注意が必要です。
必要書類は、解除の段階によって異なります。効力発生前の解除であれば、公証人の認証を受けた合意解除または一方的解除の意思表示を記載した書面が中心となります。

効力発生後の解除であれば、これに加えて、家庭裁判所の許可審判書の謄本と確定証明書が必要になります。代理人が申請する場合には、委任状もあわせて準備します。
申請できる人は、任意後見受任者など登記されている本人に加え、任意後見契約の本人の四親等内の親族、利害関係人、またこれらの方から委任を受けた人とされています。窓口での申請のほか、書留郵便などによる郵送での申請も可能です。

登記が完了するまでの期間と申請時の注意点

終了登記は、窓口で申請書が受理された日、または郵送の場合は法務局に書類が到着した日から、おおむね1週間程度で完了するとされています。登記の手数料は無料です。
注意したいのは、法務局から申請者へ「登記が完了しました」という連絡は行われない仕組みになっている点です。そのため、登記が完了したかどうかを確認したい場合は、一定期間が過ぎたあとに登記事項証明書を取得して確認する必要があります。
また、申請書に記載する解除の効力発生日は、合意解除であれば書面の作成日、一方的解除であれば通知が相手方に届いた日が基準となります。効力発生後の解除では、これらの日付と家庭裁判所の許可の確定日のいずれか遅い日を記載する必要があるため、日付の管理は慎重に行っておくと、申請時に迷わずに済みます。

任意後見人を変更したいときに知っておきたいポイント

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「今の任意後見人を変えたい」と考える場合、注意しておきたいのは、契約そのものを維持したまま、受任者だけを別の人に差し替えることはできないという点です。
任意後見契約は、本人と特定の受任者との間で結ばれる個別の契約であるため、受任者を変更したい場合は、現在の契約を解除したうえで、新しい受任者との間であらためて契約を結び直す必要があります。
少し手間に感じられるかもしれませんが、流れを理解しておけば、決して難しい手続きではありません。

解除と同時に新しい任意後見契約を結び直す流れ

任意後見人を変更する場合の基本的な流れは、まず現在の契約を、これまで説明してきた方法で解除し、そのうえで新しい受任者との間で改めて任意後見契約を結ぶというものです。
新しい契約も、もとの契約と同様に公正証書によって作成する必要があります。公証役場に出向いて公正証書を作成し、その内容に基づいて法務局への登記が行われる流れになるため、最初に契約を結んだときと同じ準備が必要になると考えておくとよいでしょう。
たとえば、これまで子どもの一人に依頼していた契約を解除し、専門職に新たに依頼し直すといったケースもあります。誰に依頼するかによって、かかる費用や日々の関わり方も変わってくるため、家族間で依頼する場合と専門家に依頼する場合の違いをあらかじめ比較しておくと、契約を結び直す際の判断材料になります。任意後見の費用を家族に頼む場合と専門家に頼む場合で比べてみたでは、その違いを具体的に取り上げています。

後悔しない選び方と見直しのタイミング

任意後見人を変更したいと感じたときは、なぜ今の契約に不安や不満を感じているのかを、まず整理してみることが後悔しない選び方につながります。
たとえば、財産管理の方針が本人の希望と合わなくなってきた場合、受任者の負担が大きくなりすぎている場合、あるいは家族関係の変化によって別の人に頼みたいと感じる場合など、理由はさまざまです。理由が明確になることで、新しい契約で何を重視すべきかも見えやすくなります。


また、任意後見以外の選択肢として、家族信託(かぞくしんたく)などの制度が本人の状況に合っている可能性もあります。財産管理の方法や本人の希望によっては、任意後見と家族信託のどちらが向いているかが分かれることもあるため、見直しのタイミングであわせて検討してみるのも一つの方法です。任意後見と家族信託はどう違う?特徴と向いているケースを比べてみたでは、それぞれの特徴を比較しています。状況が変わったタイミングこそ、契約内容を見直す自然な機会だととらえていただけたらと思います。

まとめ|状況が変わっても、任意後見は見直せる仕組みがある

任意後見契約は、結んだら最後まで変えられないものではなく、法律のなかにあらかじめ解除や見直しのための手続きが用意されている制度です。
効力発生前であれば、公証人の認証を受けた書面によって比較的シンプルに解除できますが、効力発生後は本人の保護のために家庭裁判所の許可という手続きが加わります。どちらの場合も、解除後には終了登記という手続きを忘れずに行うことが大切です。
状況が変わったときに「このままでよいのか」と感じることは、決して特別なことではありません。よりねこでは、任意後見契約の見直しや解除に関するご相談を承っております。お気軽にお問い合わせください。

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